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「虚弱体質」の正体は何なのか?虚弱体質について調べてみた!

「虚弱体質」という言葉があります。

・昔から体が弱い。
・ 疲れやすい。
・ 風邪をひきやすい。
・ 無理がきかない。
・人より休まないと回復しない。

そんな人を見て、「もともと虚弱体質なんじゃない?」なんていうことがありますよね。

私自身、「虚弱体質」と聞けばなんとなくイメージはできるのですが、「じゃあ、虚弱体質って具体的に体の何が弱いの?」と聞かれると、よくわかっていないことに気づきました。

そこで「虚弱体質」の正体について調べてみることにしました。

調べていくと面白かったのが、昔からある東洋医学の「虚」という考え方と、現代医学にある「予備力」「余力」「回復力(レジリエンス)」という考え方です。

もしかすると私たちが昔から「体が強い」「体が弱い」と感覚的に表現してきたものを、別の角度から考えるヒントになるのかもしれません。

■東洋医学には「虚」という考え方がある

「虚弱体質」という言葉からイメージしやすいものの一つが漢方です。

漢方には「虚実」という重要な考え方があります。日本東洋医学会によると、現在の日本で広く受け入れられている虚実の捉え方では、その人の基本的な体力や体格、あるいは病気に対する反応などを見ます。

漢方では、体力や体格、病気に対する反応などをみながら「虚実」を判断します。そのため、日常的にいう「虚弱体質」と重なって見える部分があります。

ただし、「虚弱体質」と「虚証」が医学的に同じ意味というわけではありません。

ここが現代医学と比べると興味深いところです。

「食が細い」「疲れやすい」「冷えやすい」「病気のあとになかなか元気にならない」といった、その人に現れているさまざまな特徴を含めて捉えようとするところに、漢方的な見方の面白さがあります。

だから私たちが「虚弱体質」と聞いて、なんとなく漢方や養生をイメージするのも不思議ではありません。

■では、西洋医学に「虚弱体質」という病気があるの?

ここで考えてみたいのが現代医学です。

現代医学では、「疲れやすい」「体が弱い」という状態を一つの原因で説明するのは難しく、それぞれの身体機能や病気について考えていくことになります。

つまり、虚弱体質という一つの正体が体のどこかに隠れている、とは考えない方がよさそうです。

「疲れやすい」という症状だけを考えても、原因は一つとは限りません。

ところが、ここで興味深いのが、現代の老年医学にある「フレイル(Frailty)」という概念です。

Frailtyは以前「虚弱」などと訳されていましたが、日本老年医学会は2014年、その可逆性などを適切に伝えるため「フレイル」という表現を提唱しました。

フレイルは「生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が高まった状態」と説明されています。

身体だけでなく、認知機能や心理、社会的な問題まで含む概念です。

つまり、重要なのは単純に「筋力が弱い」といった話だけではありません。

ストレスがかかったときに耐えられる余力がどれくらい残っているか。

ここで「予備力」という考え方が出てきます。

■「予備力」って何?

以前、ハクライドウでもフレイルは「予備力の低下」が主要因として起こりやすい!?という記事を書きました。

そこでは予備力を、「健康を守る余力」のように考えました。

これは「虚弱体質」を考えるうえでも面白い考え方です。

私たちの体は、普段の生活をギリギリの能力で動かしているわけではありません。

しかし、年齢や病気などによって予備力が低下してくると、ちょっとしたストレスでも身体のバランスを崩しやすくなります。

実際、フレイルは「加齢に伴う予備能力の低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」と説明されています。

ここで、

・余力
・予備力
・回復力(レジリエンス)

という言葉が一つにつながってきます。

■「体が強い」とは余力があることなのかもしれない

たとえば、同じように忙しい一日を過ごした二人がいたとします。

二人ともその日の夜は疲れています。

しかし、

Aさんは一晩寝たら翌朝には元気。

Bさんは翌日も疲れが残っていて、数日間調子が戻らない。

この違いを単純に「Aさんは体が強い」「Bさんは虚弱体質」と私たちは表現してきたのかもしれません。

でも「回復力」という視点から見れば、同じストレスを受けたとき、どれくらい耐えられるのか、そしてどのくらい元の状態へ戻れるのかという違いとして考えることもできます。

もちろん、これだけで虚弱体質を医学的に説明できるわけではありません。

ただ、「体が強い・弱い」という感覚を理解するための一つの考え方にはなりそうです。

■体力も一つの「予備力」?

以前書いた青年期の心肺持久力(心肺機能)が低いと、将来(中年期)労働能力が低下し病欠が多くなる!?では、フィンランドの1,207人を対象にした研究で、青年期の心肺機能の高さが中年期の労働能力の高さや病欠の少なさと関連していました。

また、腕立て伏せの回数が多い人ほど、心血管疾患になるリスクが明らかに低い!で紹介した研究では、男性消防士1,104人を対象として、腕立て伏せ能力と将来の心血管疾患リスクとの関連が調べられています。

つまり、「体力」という漠然としたものも、

・心肺持久力
・筋力
・筋持久力
・身体機能

などに分ければ、ある程度客観的に見ることができます。

以前の成功する人は体力オバケが多い!?という記事で取り上げた「体力オバケ」という言葉も、今回改めて考えるとなかなか面白い表現です。

「体力がある」というのは、単に筋肉が大きいということではなく、日常生活で使ってもまだ余力が残るだけの身体能力があり、ストレスを受けても回復できるという見方もできそうです。

体力の高さは、いざというときに使える身体的な「余力」を考える一つの手がかりになるのではないでしょうか。

■「予備力」は体だけの話ではない

さらに面白いのは、予備力という考え方が身体だけに使われるわけではないことです。

脳には「認知的予備力(cognitive reserve)」という概念があります。

認知的予備力とは、脳が加齢や病理の影響を受けても、認知機能の低下を抑える個人の潜在能力を表す概念です。以前のハクライドウの記事でも紹介しています。

同じようなアルツハイマー病理があったとしても、現れる認知機能障害には個人差があります。そのような違いを説明する考え方の一つが認知的予備力です。

ここからは私なりの整理ですが、「身体にも余力があり、脳にも変化に耐える予備力がある」と考えるとイメージしやすくなります。

そしてそれぞれの余力が小さくなれば、同じストレスを受けても影響を受けやすくなる。

「虚弱」という昔からある言葉と、どこか通じるものを感じます。

■「虚弱体質=予備力が低い」と断定してはいけない

ただし、ここは大事です。

今回調べたことから、虚弱体質とは予備力が低い人のことであると医学的に定義できるわけではありません。

また、「自分は疲れやすいから虚弱体質なんだ」と自己判断して終わらせるのもよくありません。

「疲れやすい」「息切れする」「以前できていたことができなくなった」といった変化には、さまざまな健康上の問題が関係している可能性があります。

今回の「予備力」「余力」「回復力」という言葉は、病名や診断基準としてではなく、昔から私たちが「体が強い・弱い」と感じてきた違いを考えるための視点として捉えるのがよさそうです。

■東洋医学と現代医学、意外と見ている方向は近い?

今回一番面白いと思ったのがここです。

漢方では、身体機能などが不足・低下している状態を「虚証」という考え方で捉えます。

一方、現代の老年医学には、

予備能力が低下する
↓
ストレスに対して脆弱になる
↓
元の状態に戻る力も低下する
↓
こうした状態をフレイルという概念から捉える

という考え方があります。

もちろん「虚証」と「フレイル」や「予備力」は同じ概念ではありません。

ただ、その人には、困ったときに使える「余力」がどれくらい残されているのか?という視点から眺めると、不思議と重なる部分があります。

漢方医療でも、実際にフレイルという現代医学の概念と漢方医学の虚弱状態を関連づけた解説が行われています。

■もう一つ、「虚弱体質」という言葉について考えたこと

今回調べながら、もう一つ面白いと思ったことがあります。

それは、「虚弱体質」という言葉そのものが、いろいろな状態を一つにつなげて理解するための「概念」として役立ってきたのではないか、ということです。

疲れやすい。
食が細い。
無理がきかない。
体調を崩しやすい。
一度調子を崩すとなかなか元に戻らない。

一つ一つを見れば別々の現象です。

ところが、

「自分は虚弱体質なのかもしれない」

という一つの言葉で捉えると、それまでバラバラだったものが一つにつながって見えてきます。

もちろん、「昔の人がそのために虚弱体質という言葉を作った」という歴史的な事実を確認したわけではありません。これは今回調べながら私が考えた一つの仮説です。

ただ、複数の現象に一つの名前が付くことで、

「自分はいま、どういう状態にあるのか」

を理解しやすくなることはあるのではないでしょうか。

ここで思い出したのが、以前書いた「魔法の世紀」(#落合陽一)を読んで考えたこと|西洋と東洋の考え方の違いです。

この記事では、西洋的な分析思考と東洋的な包括思考という違いについて考えました。

私には、東洋的な考え方には、物事を個別に切り離すよりも、さまざまな物事の関係も含めて全体を見るイメージがあります。

一方、西洋の科学には、複雑な現象を細かく分けて、「何が起きているのか」を分析していくイメージがあります。

もちろん、実際の東洋医学と西洋医学を、そんなに単純に二分することはできません。

実際、現代医学のフレイルも、身体だけでなく認知・心理・社会的な問題まで含めて考える包括的な概念です。

それでも「虚弱体質」について、

包括してみる → 分解してみる → もう一度つなげてみる

という二つの見方を行き来するのは面白いと思います。

最初に、

疲れやすい・食が細い・無理がきかない・回復が遅い

という状態を、「虚弱体質」という大きな概念で捉えてみる。

次に現代医学の視点から、心肺機能、筋力、栄養状態、睡眠、病気、予備力、回復力などに分けて考えてみる。

そして最後にもう一度、

「この人には、どのくらい余力があるのだろう?」
「ストレスがかかったとき、どのくらい耐えられるのだろう?」
「その後、どのくらい元の状態に戻れるのだろう?」

と全体を眺めてみる。

包括する → 分解する → もう一度つなげる。

そうやって違ったレンズから眺めてみると、「虚弱体質」という昔からある曖昧な言葉が、少し違って見えてきます。

■「虚弱体質」を少しでも良くする方法はあるの?

ここまで「虚弱体質」という言葉について調べてくると、次に気になるのが、「じゃあ、虚弱体質は少しでも良くできるの?」ということです。

そもそも「虚弱体質」という一つの病気があるわけではないので、「これをすれば虚弱体質が治る」という単純な方法があるわけではありません。

ただ、今回見てきた「余力」「予備力」「回復力」という視点から考えると、できることはありそうです。

1.心肺機能や筋力という「身体的な余力」を作る

体力を維持するために重要なのが身体活動です。

厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、高齢者について「今よりも少しでも多く身体を動かす」ことを基本に、歩行などを1日40分以上、筋力トレーニングを週2~3日、多要素な運動を週3日以上行うことなどが推奨されています。ただし、体力や健康状態に合わせて量や強度を調整することが前提です。

大切なのは、いきなり「体を鍛えなければ」と考えることではありません。

特に体力が落ちている人ほど、

今できる範囲で少し動く
↓
筋力や心肺機能を維持・改善する
↓
日常生活で使える余力を増やしていく

という考え方がよさそうです。

2.「食べられること」も予備力を支える

フレイル予防では運動だけでなく、栄養も重要です。

厚生労働省のフレイル予防資料でも、栄養、運動、社会参加が重要な柱として示され、特にたんぱく質を含む多様な栄養素の摂取が挙げられています。

ここは昔から「虚弱」と結びつけて考えられてきた「食が細い」という特徴ともつながります。

食べられない
↓
栄養状態が低下する
↓
筋力が落ちる
↓
動かなくなる
↓
さらに食欲や体力が落ちる

という悪循環に入らないことが大切です。

3.意外と重要なのが「人とつながること」

そして興味深いのが、現代のフレイル予防では社会参加まで重要視されていることです。

家族や友人との交流、外出、地域活動、仕事、趣味などによって社会とのつながりを保つことも、フレイル予防の重要な要素として考えられています。健康長寿ネットでも、運動・栄養だけでなく、社会活動への参加や人との交流の重要性が紹介されています。

ここまで来ると、「体が強い」というのは単純な筋力だけの話ではないことがわかります。

■まとめ:「虚弱体質」の正体は一つではない

「虚弱体質って何だろう?」

そんな素朴な疑問から調べ始めました。

調べてみると、どうやら「虚弱体質の正体はこれです」と一つの原因に決める話ではなさそうです。

東洋医学には昔から「虚」という身体全体を捉える考え方があります。

一方、現代医学では、筋力、心肺機能、栄養状態、認知機能などを個別に評価しながら、フレイルのように「予備力が低下し、ストレスに対して脆弱になっている状態」を捉える考え方があります。

そこで今回、私が一番しっくりきたのが、余力・予備力・回復力(レジリエンス)という言葉でした。

元気なときには違いが見えなくても、忙しくなったり、病気になったり、年齢を重ねたりしたときに「余力」の違いが現れる。

私たちはそんな個人差を昔から、

「体が丈夫だね」
「昔から虚弱体質なんだよね」

と表現してきたのかもしれません。

もちろん、これは「虚弱体質」という言葉に新しい医学的定義を与えるものではありません。

ただ、漠然とした「体が弱い」という言葉を、

何の予備力が小さいのか?
どれくらい余力があるのか?
ストレスを受けたあと、どのくらい回復できるのか?

と考え直してみる。

今回調べてみて、「虚弱体質」の正体が一つ見つかったわけではありません。

むしろ面白かったのは、「虚弱体質」という一つの概念があることで、疲れやすい、食が細い、無理がきかない、回復が遅いといったバラバラの状態を、一つにつなげて理解しやすくなるのではないかと気づいたことでした。

そして現代では、それを心肺機能、筋力、栄養状態、睡眠、病気、予備力、回復力などにいったん分解して考えることができます。

包括する。分解する。そして、もう一度つなげてみる。

そうやって違う角度から眺めてみると、「虚弱体質」という昔からの言葉が、少し違って見えてくるのではないでしょうか。

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※本記事は「虚弱体質」という言葉について、東洋医学・現代医学の考え方を一般向けに整理したものです。「虚弱体質」を医学的な診断名として扱ったり、「予備力の低下」と同一視したりするものではありません。強い疲労や体力低下などが続く場合は、体質だけで判断せず医療機関に相談してください。







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

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iPS細胞でパーキンソン病を治療?「アムシェプリ」の研究では何がわかったの?

iPS細胞から作った神経細胞を脳に移植し、パーキンソン病の症状改善を目指す。

そんな未来の医療のような治療が、実際の医療現場で始まりました。

2026年10月、京都大学医学部附属病院で、iPS細胞から作製したドパミン神経前駆細胞を使ったパーキンソン病治療「アムシェプリ」の移植が行われました。

これまでの薬による治療とは少し考え方が違います。

「減少したドパミンを薬によって補う」だけではなく、「失われたドパミン神経細胞そのものを補う」。

もちろん、これによってパーキンソン病が「治る」と証明されたわけではありません。

それでも、これまで治療が難しかった神経の病気に対して、新しい方向からアプローチできるようになってきたことは、難病治療に一筋の光が差してきたようにも感じられます。

では、今回の治療はどのようなものなのでしょうか?

研究をもとに見てみましょう。

1.iPS細胞を使ったパーキンソン病治療が始まった

京都大学医学部附属病院は2026年10月、iPS細胞由来のドパミン神経前駆細胞を使った再生医療等製品「アムシェプリ」による移植治療を実施したことを発表しました。

「iPS細胞を使った治療」というと、それだけでも大きなニュースに感じます。

しかし、今回の治療がなぜ注目されているのかを理解するには、まずパーキンソン病では脳の中で何が起きているのかを見る必要があります。

参考:京都大学医学部附属病院 脳神経内科の発表

2.そもそもパーキンソン病では何が起きている?

私たちが歩いたり、手を動かしたりするとき、脳の中では多くの神経細胞が連携しています。

その中で重要な役割を果たしている物質の一つがドパミンです。

パーキンソン病では、中脳の黒質に存在するドパミンを作る神経細胞が減少します。

その結果、動作が遅くなる「動作緩慢」、体がこわばる「筋強剛」、手足が震える「振戦」などの運動症状が現れます。

現在は、ドパミンを脳内で補うことを目的としたL-ドパ(レボドパ)などによる薬物治療があります。

ところが今回のiPS細胞を使った治療は、これとは発想が違います。

参考:京都大学「iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いたパーキンソン病治療」

3.「アムシェプリ」は何をするの?

「アムシェプリ」では、iPS細胞からドパミン神経前駆細胞を作り、それを患者の脳に移植します。

「前駆細胞」といわれると難しく感じますが、簡単にいうと、

これからドパミン神経へと成長していく段階の細胞

と考えるとわかりやすいでしょう。

つまり、不足しているドパミンを薬で補うというだけではなく、ドパミンを作る神経細胞そのものを補うという発想です。

これが今回の治療の非常に興味深いところです。

では、本当に移植した細胞は人間の脳の中で働くのでしょうか?

その重要な手がかりとなったのが、2025年にNatureに掲載された臨床試験です。

参考:京都大学による研究成果の解説

4.Nature論文では何がわかったの?

Natureに発表された第I/II相臨床試験では、50~69歳のパーキンソン病患者7人にiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を移植し、24カ月間にわたって安全性などが調べられました。

研究では、まず安全性が重要な評価項目となりました。

2年間の観察期間中、重篤な有害事象は報告されませんでした。一方で、軽度から中等度の有害事象は確認されています。またMRIでは、移植組織の腫瘍のような異常増殖は認められませんでした。

そして非常に興味深いのが、移植した細胞によるドパミン産生を示す結果が得られたことです。

さらに、運動症状についても変化が見られました。

有効性を評価できた6人のうち、薬の影響がないOFF状態で評価した運動症状のスコアが改善したのは4人でした。

「OFF状態」とは、パーキンソン病治療薬の効果がない時に運動症状を評価した状態です。

つまり今回の研究では、

・移植した細胞が脳内で生着した
・ドパミン産生を示す結果が確認された
・観察期間中に腫瘍形成は確認されなかった
・一部の患者では運動症状の改善もみられた

という結果が得られました。

これは「iPS細胞から作った神経細胞を人間の脳へ移植する」というアイデアが、単なる実験室の研究ではなく、実際の治療へ近づいてきたことを示す重要な研究といえそうです。

参考:Nature「Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease」PDF

5.では、パーキンソン病が「治る治療」なの?

ここは誤解しないように注意する必要があります。

今回の研究だけから「iPS細胞でパーキンソン病が治る」と考えることはできません。

臨床試験に参加した患者は7人と少人数です。

また、第I/II相試験であり、まず重要だったのは安全性を確認することです。

一部の患者で運動症状の改善が認められたことは期待できる結果ですが、治療効果がどの程度あるのか、どのくらい持続するのか、どのような患者に適しているのかなどについては、今後さらに確認していく必要があります。

「アムシェプリ」についても、2026年3月に条件及び期限付製造販売承認を受けています。

つまり、ゴールに到達したというより、長年研究されてきたiPS細胞による神経再生医療が、研究から実際の医療へ一歩踏み出したと考える方がよいでしょう。

参考:Nature論文

参考:京都大学医学部附属病院「アムシェプリ」承認について

6.iPS細胞はほかの神経難病にも使える?

ここで気になるのが、「このような方法はパーキンソン病以外の神経難病にも応用できるのだろうか?」ということです。

たとえば進行性核上性麻痺(PSP)は、動きにくさなどパーキンソン病と似た症状が現れることがあります。

しかし、パーキンソン病とPSPは同じ病気ではありません。

そして何より重要なのは、今回の「アムシェプリ」がPSPにも有効であることを示した研究ではないということです。

今回紹介した臨床試験の結果を、そのままPSPなどの別の神経難病に当てはめることはできません。

神経難病とひとことでいっても、病気が起こる仕組みは同じではないからです。

一方で、PSPについても研究は進んでいます。

2026年には、脳内に蓄積するタウタンパク質をPETで可視化し、タウの蓄積と症状との関係を調べる研究などが報告されています。

つまり、パーキンソン病では「失われたドパミン神経細胞を補う」という方向から、PSPでは病気に関係するタウが「どこに、どのように蓄積し、症状とどう関係するのか」を理解する方向から、それぞれ研究が進んでいます。

アプローチは違いますが、これまで治療が難しかった神経難病について、病気の仕組みを理解し、新しい治療につなげようとする研究が少しずつ前へ進んでいます。

■難病治療に一筋の光が差してきた

今回のニュースで特に印象的なのは、「失われた神経細胞を薬で補助する」のではなく、「細胞そのものを作って補う」という治療が、実際の医療現場に入り始めたことです。

もちろん、まだ「神経難病を治せる時代が来た」と言える段階ではありません。

7人を対象とした研究結果だけで、大きな結論を出すこともできません。

それでも、

iPS細胞を作る
↓
神経細胞になる前段階まで育てる
↓
人間の脳に移植する
↓
その細胞が生着し、ドパミン産生を示す

というところまで研究が進み、その成果をもとに実際の医療が始まったことには大きな意味があります。

そしてiPS細胞は、細胞を補う治療だけでなく、これまで十分にわかっていなかった神経難病の仕組みを研究するための道具にもなっています。

まだ長い道のりの途中ではありますが、「治療が難しい」とされてきた病気に対して、これまでとは違うアプローチが現実になり始めた。

それは、難病の治療に一筋の光が差してきた、と捉えてもいいのではないでしょうか。

【参考資料】
京都大学医学部附属病院 脳神経内科
京都大学:iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞を用いた研究
Nature:Phase I/II trial of iPS-cell-derived dopaminergic cells for Parkinson’s disease
京都大学医学部附属病院:アムシェプリ承認について







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水うがいに効果はあるの?

朝と夜はきちんと歯磨きをしていても、お昼は忙しくて歯を磨く時間がない。

そんな人は意外と多いのではないでしょうか?

「歯磨きできないなら仕方ない」と、そのままにしてしまうこともありますよね。

でも、もし30秒くらいしか時間がなくても、水を口に含む → ブクブクうがい → 続けてガラガラうがいくらいならできるかもしれません。

では、普通の水でうがいをするだけでも意味はあるのでしょうか?

調べてみると、「歯磨きできないから何もしない」より、とりあえず水うがいをしておくのはよさそうだと思える研究がいくつかありました。

1.水うがいをすると、口の中の微生物も一緒に出てくる

まず興味深いのが、2019年に Scientific Reports に掲載されたComparison of oral microbiome profiles in stimulated and unstimulated saliva, tongue, and mouth-rinsed waterという研究です。

研究では、健康な10人から「水で口をすすいだ液」「刺激唾液」「無刺激唾液」「舌苔」を採取して、そこに含まれている微生物を比較しました。

その結果、水ですすいだ液に含まれる微生物の多様性は唾液と似ており、微生物の構成も唾液と非常に高い相関を示しました。

つまり、水でブクブクうがいして吐き出した水には、口の中にいた微生物も含まれているということです。

「水で口をすすぐだけ」と思っていましたが、ちゃんと口の中のものを外へ出しているんですね。

2.食後の水うがいは、酸性に傾いた歯垢を中性側へ戻す可能性

そして、こちらは最近の研究です。

2026年10月に Oral Diseases でオンライン公開されたEffect of Water Rinsing on Dental Biofilm pH After Exposure to Fermentable Carbohydrate: A Scoping Reviewでは、

「糖質を摂ったあと、水ですすぐと歯垢(デンタルバイオフィルム)のpHはどうなるのか?」

について、過去の研究を調べています。

研究では1,296報から条件を満たした14研究を評価。

水うがいに使った水の量が報告されていた10研究を見ると、20mL以上の水を使った5研究のうち4研究で、歯垢のpHが有意に上昇していました。

研究者らは、研究数が少ないなどの限界はあるものの、発酵性炭水化物を摂ったあとに20mL以上の水ですすぐことで、酸性に傾いた歯垢を中性側へ戻せる可能性があるとまとめています。

これなら、お昼に歯を磨く時間がなかったとしても、「食後、とりあえず水で口をすすいでおこう」というのは、意外と理にかなっているのかもしれません。

3.ブクブクうがいの後は「ガラガラうがい」も?

さらに、これから寒くなってくると気になるのが風邪です。

そこで興味深いのが、2005年に American Journal of Preventive Medicine に掲載されたPrevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trialです。

健康な18~65歳の387人を、

・水うがい
・ポビドンヨードうがい
・普段通りに生活するグループ

に無作為に分けて調べました。

うがいをするグループは1日3回以上うがいを行い、60日間追跡されました。

その結果、水うがいをしたグループでは、普段通りに生活したグループよりも上気道感染症の発症が少なくなっていました。

研究者らは、健康な人においてシンプルな水うがいが上気道感染症の予防に有効だったと結論づけています。

だとすると、

ブクブクうがいをしたら、そのままガラガラうがいもしておく。

これからの季節には、そんな習慣もよさそうです。

昼に歯磨きできなかったら、とりあえず水うがい

ここまでの研究をまとめると、

昼に歯磨きできない

↓

水を口に含んでブクブクうがい

↓

口の中の微生物を含んだ水を吐き出す

↓

糖質を摂ったあとに酸性に傾いた歯垢のpHを中性側へ戻せる可能性

↓

最後にガラガラうがい

↓

水うがいを1日3回以上行った人で上気道感染症が少なかった研究もある

ということになります。

たったこれだけなら、30秒くらいでもできそうです。

ただし、水うがいは歯磨きの代わりではありません

最後に、研究を読むうえでの注意点もまとめておきます。

今回紹介した研究からは、水うがいで歯の表面に付着した歯垢がどのくらい取れるのか、口の中の細菌そのものがどのくらい減るのかまでは分かりません。

また、上気道感染症についても、水うがいをすれば必ず風邪を防げるという意味ではありません。

ですから、「水うがいをしておけば歯磨きしなくても大丈夫」という話ではありません。

でも、「歯磨きできないなら、何もしなくても同じ」というわけでもなさそうです。

朝晩はいつも通り歯磨きをする。

お昼は歯磨きできれば歯磨きをする。

でも忙しくて30秒しかないなら、

「とりあえず水でブクブク。そのあとガラガラ。」

特別な道具もいりませんし、お金もほとんどかかりません。

歯磨きできなかった日の「何もしない」と「ちゃんと歯磨きする」の間に、「水うがいだけでもしておく」という選択肢を一つ増やしておくくらいで考えるとよさそうですね。

【参考文献】
Effect of Water Rinsing on Dental Biofilm pH After Exposure to Fermentable Carbohydrate: A Scoping Review, Oral Diseases, 2026.
Comparison of oral microbiome profiles in stimulated and unstimulated saliva, tongue, and mouth-rinsed water, Scientific Reports, 2019.
Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial(PubMed), American Journal of Preventive Medicine, 2005.







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コカ・コーラ ゼロを1日3本飲んで肝臓がE判定?人工甘味料と肝臓・夜のかゆみの関係を論文から調べてみた

Xを見ていると、気になる投稿がありました。

投稿者によると、夜になると体がかゆくなる症状があり、健康診断では肝臓について「E判定」だったそうです。

→ 気になる投稿はこちら

お酒は基本的に金曜・土曜に飲む程度。一方で、コカ・コーラ ゼロを1日3本ほど飲んでいたことに気づき、飲むのをやめたところ、体のかゆみがほとんど出なくなってきたとのこと。

そこで気になった疑問がいくつか浮かびます。

・人工甘味料入り飲料を毎日飲むことと肝臓には関係があるのか?
・肝臓が悪くなると体がかゆくなることがあるのか?
・なぜ「夜」にかゆくなるのか?
・コカ・コーラ ゼロと皮膚のかゆみに直接的な関係はあるのか?
・お酒をそれほど飲まなくても肝臓は悪くなるのか?
・人工甘味料入り飲料を1日3本飲んでいたことが「肝臓E判定」に関係している可能性はあるのか?

こちらのギモンについて研究をもとに整理してみたいと思います。

最初に結論をいうと、人工甘味料入り飲料と肝疾患の「関連」を示す研究はあります。また、肝胆道系の病気によって夜に強いかゆみが起こることもあります。

ただし、この2つをつなげて、

「コカ・コーラ ゼロに含まれる人工甘味料が肝臓を悪くして、夜のかゆみを起こした」

とまで断定できる証拠は、現時点ではありません。

■人工甘味料入りのダイエット飲料と肝臓には関係がある?

2025年のUEG Weekで発表された研究では、肝疾患のないUK Biobank参加者123,788人を対象として、砂糖入り飲料と低糖・無糖甘味飲料の摂取と、MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の発症との関連が調べられています。

その結果、1日250gを超えて低糖・無糖甘味飲料を摂取していた人ではMASLD発症リスクが約60%高く、砂糖入り飲料についても約50%高いという関連がみられました。追跡期間の中央値は10.3年でした。

HAKURAIDOUでも以前、

ダイエット飲料や砂糖入り飲料を飲む習慣がある人は、肝疾患(NAFLD/MASLD)の発症リスクが最大60%高まる可能性

で、この研究を紹介しました。

ここだけを見ると、

「やっぱりダイエット飲料は肝臓に悪いんじゃないか?」

と思ってしまいます。

ただし、この研究は観察研究であり、UEG Week 2025で発表された研究です。

つまり、

「低糖・無糖甘味飲料を多く飲んでいる人でMASLDの発症リスクが高かった」

ことと、

人工甘味料が直接肝臓を傷つけてMASLDを起こした

ことは同じ意味ではありません。

ここを分けて考える必要があります。

■「お酒は金土しか飲まないのに肝臓が悪い」はおかしくない?

「肝臓が悪い」と聞くと、まずアルコールを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。

しかし、MASLDは、飲酒だけを原因とするものではなく、肥満や糖・脂質代謝などの代謝機能障害と関連して肝臓に脂肪が蓄積する病気です。

そして人工甘味料についても、以前から体重・肥満・メタボリックシンドローム・2型糖尿病などとの関連が研究されています。

HAKURAIDOUでも過去に、

人工甘味料を摂取すると、体重増加や肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心臓疾患のような病気になる可能性がある!?|研究

で、37件の研究を対象とした2017年のシステマティックレビュー・メタ解析を紹介しています。

そこでは無栄養甘味料と体重減少との明確な関連は確認できず、長期の観察研究ではBMI増加や肥満、高血圧、メタボリックシンドローム、2型糖尿病などとの関連が報告されていました。

そのため、

「週末しかお酒を飲まない=肝臓が悪くなる理由がない」

とは限らないわけです。

逆に、

「お酒をあまり飲まない=ゼロコーラが原因」

とも言えません。

体重や腹囲、糖・脂質代謝、食生活、運動、薬剤など、肝機能に関係する別の要素も含めて考える必要があります。

■人工甘味料と腸内細菌・代謝の関係は?

もう一つ以前から研究されているのが、人工甘味料と腸内細菌との関係です。

HAKURAIDOUでは、

人工甘味料で糖尿病リスク増!?|人工甘味料は腸内細菌のバランスを崩して、血糖値が下がりにくい状態にする作用がある!?

で、Natureに掲載されたサッカリンなどの人工甘味料、腸内細菌、耐糖能との関係を調べた研究を紹介しています。

人工甘味料については単純に、

「砂糖が入っていない→カロリーが少ない→健康的」

とだけ考えるのではなく、代謝や腸内細菌なども含めて研究が続けられているわけです。

ただし、これについても、

人工甘味料→腸内細菌の変化→代謝異常→脂肪肝

という一連の流れが、今回のX投稿者の体内で起きたと証明されたわけではありません。

考えられるメカニズムと、その人の病気の原因は分けて考える必要があります。

■では「夜になると体がかゆい」と肝臓には関係がある?

実は、ここが今回調べていて特に興味深かったところです。

肝臓・胆道系の病気では「かゆみ」が起こることがあります。

米国肝臓学会(AASLD)は、胆汁うっ滞性肝疾患でよくみられる症状の一つが「掻痒(かゆみ)」であると解説しています。

手のひらや足の裏に特徴的に現れることがありますが、全身にかゆみが生じる場合もあります。

そして非常に興味深いことに、

かゆみは夜に最も強くなることがある

とされています。

2023年に発表されたシステマティックレビューでも、掻痒は複数の胆汁うっ滞性肝疾患でみられる症状として扱われています。

ですから、

「夜になると体がかゆいから、肝臓が関係している可能性もあるのでは?」

という考えそのものは、医学的にあり得ない話ではありません。

ただし、これは大事なので強調しておきます。

「夜に体がかゆい=肝臓が悪い」という意味ではありません。

皮膚疾患など、かゆみには肝臓以外にもさまざまな原因があるため、かゆみだけから肝臓が原因とは判断できません。

今回の投稿の場合も、肝臓由来の症状だったかどうかは、投稿内容だけでは判断できません。

■コカ・コーラ ゼロをやめたらかゆみが消えた。人工甘味料が原因?

では、コカ・コーラ ゼロをやめる→かゆみがほぼ出なくなったという部分はどう考えればいいのでしょうか?

人工甘味料の一つであるアスパルテームについては、蕁麻疹・血管性浮腫などとの関係が過去に研究されています。

興味深いのは、その結果です。

1993年に行われた多施設ランダム化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験では、アスパルテーム含有食品による蕁麻疹・血管性浮腫を経験したと訴えていた人を対象として調べました。

研究に参加できたのは21人と小規模でしたが、確認された反応はアスパルテーム摂取後が2件、プラセボ後も2件で、有意差はありませんでした。研究者らは、アスパルテームがプラセボより蕁麻疹・血管性浮腫を起こしやすいことを示す結果ではなかったと結論づけています。

さらに2015年の二重盲検ランダム化クロスオーバー研究では、「アスパルテームに敏感」と自己申告した48人と対照48人を比較しましたが、評価した症状についてアスパルテームと対照食品との違いは認められませんでした。

ただし、この2015年の研究は「かゆみ」そのものを検証した試験ではありません。

つまり、少なくともアスパルテームについて、「摂取すると一般的に蕁麻疹やかゆみを起こす」とする十分な根拠は、今回確認したヒトの比較試験からは得られませんでした。

もちろん以前に症状を経験した一個人について「絶対に人工甘味料とは関係ない」とも言えません。

しかし少なくとも、コカ・コーラ ゼロ→人工甘味料→皮膚のかゆみという単純な関係が確立しているわけではなさそうです。

■「1日3本」は肝臓E判定と関係している?

ここで最初のX投稿に戻ります。

今回分かっている情報を並べてみます。

コカ・コーラ ゼロを1日3本ほど飲んでいた
健康診断で肝臓が「E判定」
アルコールは基本的に金曜・土曜
夜になると体がかゆい
コカ・コーラ ゼロをやめたところ、かゆみがほぼなくなった

一見すると、きれいにつながっているように見えます。

ゼロコーラを毎日飲む
→ 肝臓が悪くなる
→ 肝臓が原因で夜かゆくなる
→ ゼロコーラをやめる
→ かゆみが改善

しかし本当にこの一本道なのでしょうか?

ここまで見てきた研究からは、そう断定することはできません。

人工甘味料入り飲料の摂取とMASLDとの「関連」を示す研究はあります。

胆汁うっ滞性肝疾患でかゆみがみられ、とくに夜間に強くなることがあることも知られています。

一方で、アスパルテームそのものが蕁麻疹・血管性浮腫を起こしやすいという仮説は、少なくとも確認した小規模ランダム化比較試験では支持されませんでした。

つまり、それぞれについて研究はあるのですが、このX投稿の出来事をすべて一本につなぐ証拠がないのです。

■実は一番知りたいのは「E判定」ではなく具体的な検査値

今回の投稿を読むうえで、一番重要なのに分からない情報があります。

それが、

「肝臓の何の検査値が悪かったのか?」

です。

AST・ALTが高かったのか、γ-GTPが高かったのか、ALPなど胆道系に関連する数値に異常があったのかによって、話は大きく変わります。

また「かゆみ」と肝胆道系疾患の関連を考える場合には、胆汁うっ滞の有無など医療機関での評価が重要になります。

AASLDが紹介する胆汁うっ滞性肝疾患の症例でも、掻痒とともにALPなどの検査値が示されています。

したがって、

「肝臓E判定」だけでは、脂肪肝なのか、別の肝胆道系の問題なのか、あるいはどのような異常だったのかまでは分かりません。

もし再検査を受けて具体的な検査値が分かれば、この話の解像度はかなり上がります。

■「やめたら治った」は原因の証明になる?

そして、今回の話にはもう一つ大事なポイントがあります。

「AをやめたらBが改善した」という経験だけでは、「AがBの原因だった」とまでは証明できません。

今回の場合、

「コカ・コーラ ゼロをやめたらかゆみが改善した」

という本人の観察には意味があります。

しかし、それだけで、

「人工甘味料によって肝臓が悪くなっていたから、人工甘味料をやめたことで肝臓が改善し、かゆみが消えた」

とまでは言えません。

そもそも、かゆみが肝臓由来だったのかも確認されていません。

また「コカ・コーラ ゼロをやめる」という行動では人工甘味料だけではなく、その飲料自体の摂取習慣も同時に変わっています。

だからこそ、再検査の結果が重要になります。

■まとめ:人工甘味料→肝臓→かゆみ、と単純には結論づけられない

今回のX投稿をきっかけに調べてみると、低糖・無糖甘味飲料の摂取とMASLD発症リスクの上昇との「関連」を示す研究はありました。また、胆汁うっ滞性肝疾患では、夜間に強くなるかゆみがみられることもあります。

しかし、

ゼロコーラを毎日飲む
→ 人工甘味料で肝臓が悪くなる
→ 肝臓が原因で夜にかゆくなる

という一連の因果関係が証明されているわけではありません。

むしろ今回の投稿で一番気になるのは、「肝臓E判定」の中身です。

AST、ALT、γ-GTP、ALPなど、どの検査値に異常があったのか。

そこが分からなければ、MASLDなのか、飲酒や別の原因なのか、胆道系の問題とかゆみが関係していたのかを判断することはできません。

「コカ・コーラ ゼロをやめたらかゆみが改善した」という本人の経験は興味深い観察です。しかし、それは原因を特定したこととは別です。

健康診断で肝機能異常を指摘され、かゆみなどの症状も出ている場合は、「人工甘味料が原因だった」と自己判断して終わらせるのではなく、医療機関で再検査を受け、具体的にどの検査値が異常なのかを確認することが重要です。

→ 皮膚がかゆくなる|なぜ肝機能が低下するとかゆみの症状が出るのか? について詳しくはこちら

→ 肝臓の数値(肝機能数値)|ALT(GPT)・AST(GOT)・γ-GTP について詳しくはこちら

【関連記事】
ダイエット飲料や砂糖入り飲料を飲む習慣がある人は、肝疾患(NAFLD/MASLD)の発症リスクが最大60%高まる可能性
人工甘味料を摂取すると、体重増加や肥満、メタボリックシンドローム、2型糖尿病、心臓疾患のような病気になる可能性がある!?|研究
人工甘味料で糖尿病リスク増!?|人工甘味料は腸内細菌のバランスを崩して、血糖値が下がりにくい状態にする作用がある!?

【参考資料】
United European Gastroenterology, UEG Week 2025: artificially sweetened and sugary drinks and MASLD.
リンクはこちら

AASLD, “Management of pruritus in cholestatic liver disease.”
リンクはこちら

Ebhohon E, Chung RT. Systematic review: efficacy of therapies for cholestatic pruritus. 2023.
リンクはこちら

Geha RS, et al. Aspartame is no more likely than placebo to cause urticaria/angioedema: Results of a multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study. J Allergy Clin Immunol. 1993.
リンクはこちら

Sathyapalan T, et al. Aspartame Sensitivity? A Double Blind Randomised Crossover Study. PLOS ONE. 2015.
リンクはこちら







「本記事は医療行為の代替ではなく、テレビ・論文・公的資料を一般の生活者向けに噛み砕いたものです」

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歯周病・口腔細菌と大腸がんに関連はある?過去の研究から2026年の最新研究までわかりやすく解説

「歯周病は口の中だけの病気」と思っていませんか?

近年、「口の中にいる細菌」と大腸がんとの関係が世界中で研究されています。

特に注目されているのが、歯周病とも関連する口腔細菌の一種「Fusobacterium nucleatum(フソバクテリウム・ヌクレアタム、以下F. nucleatum)」です。

実はHAKURAIDOUでは以前から「口と腸のつながり」に注目し、2017年の口腔細菌と腸管免疫についての研究や、2018年に発表された口腔内のF. nucleatumと大腸がんについての研究を紹介してきました。

それから約8年。

研究はどこまで進んだのでしょうか?

結論を先に言うと、

歯周病や特定の口腔細菌と大腸がんとの「関連」を示す研究はかなり増えてきました。

特にF. nucleatumについては、単に大腸がん組織に存在するだけでなく、炎症や免疫反応、腫瘍微小環境などに影響し、大腸がんの進行に関与する可能性について研究が進んでいます。

ただし大切な注意点があります。

「歯周病になると大腸がんになる」ことや、「歯磨きやフロスをすれば大腸がんを予防できる」ことが証明されたわけではありません。

現在分かっていることを、過去の研究から順番に見てみましょう。

■2017年|「口の細菌が腸へ行く」ことに注目した研究

HAKURAIDOUでは以前、

歯磨きなどで口の中をきれいに保つことが腸の病気の予防につながる!?|腸管に定着すると免疫細胞の過剰な活性化を引き起こす口腔常在菌がいる|早稲田大・慶大

という記事を紹介しています。

この研究は、本田賢也さん、服部正平さんらの研究グループによるもので、2017年に『Science』に掲載されました。

研究グループが注目したのは、炎症性腸疾患などの患者では、本来は口の中に多く存在する細菌が腸内で多く検出されることでした。

マウスを使った実験では、口腔に存在するKlebsiella(クレブシエラ)菌が、腸内細菌叢のバランスが乱れた状態では腸に定着し、TH1細胞と呼ばれる免疫細胞を過剰に活性化させることが確認されました。腸炎を起こしやすいマウスでは、この定着によって炎症が悪化しました。

ここで重要なのは、

「口の細菌は口の中だけにいるわけではない」

ということです。

口腔と腸は完全に独立した世界ではなく、口腔細菌が腸へ到達し、条件によっては腸管免疫に影響する可能性が実験的に示されました。

ただし、この研究の中心は炎症性腸疾患とクレブシエラ菌です。

「クレブシエラ菌が大腸がんを起こす」と証明した研究ではないことには注意が必要です。

■2018年|大腸がん患者の「口」と「がん組織」から同じ菌

そしてもう一つ、HAKURAIDOUでは重要な研究を紹介しています。

口の中の歯周病菌(F. nucleatum)が大腸がんの発がんに関与|横浜市立大学先端医科学研究センター

2018年、横浜市立大学などの研究グループが、大腸がん患者14人の大腸がん組織と唾液を調べました。

その結果、14人のうち8人(57%)で、大腸がん組織と唾液の両方からF. nucleatumが検出されました。

さらに、この8人について菌株レベルで調べたところ、6人から同一菌株が検出されました。これは全被験者14人の43%、大腸がん組織からF. nucleatumが検出された8人の75%に当たります。

これは非常に興味深い発見でした。

なぜなら、

口のF. nucleatum
↓
何らかの経路で大腸へ移動
↓
大腸がん組織に存在

という可能性が出てきたからです。

研究者らも、大腸がん組織のF. nucleatumが口腔由来であることを強く示唆する結果だとしています。

ただし当時の研究では症例数が14人と少なく、口腔内の菌がどのような経路で大腸まで移行するのかも明らかになっていませんでした。研究グループ自身も、その点を今後の課題としていました。

■では、その後の研究はどうなった?

ここからが今回の記事の本題です。

その後、研究はさらに進みました。

2012年ごろから、大腸がん組織ではF. nucleatumが高率に検出されることが報告され、その後、動物実験などでも大腸がんとの関係が研究されてきました。

そして現在では、研究の焦点は単なる

「大腸がん組織からF. nucleatumが見つかった」

という段階から、

「口腔由来の細菌はどのように大腸へ到達するのか?」

「F. nucleatumは大腸がんの環境の中で何をしているのか?」

「単にがん組織にいるだけなのか、それともがんの進行に積極的に関わっているのか?」

という、より具体的なメカニズムを調べる段階へ進んできています。2026年のレビューでも、F. nucleatumが単なる「傍観者」ではなく、大腸がんの腫瘍微小環境に能動的に関与する可能性を支持する研究が整理されています。

■2025年|複数の研究をまとめても関連がみられた

2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタ解析では、歯周病または口腔病原菌への曝露と大腸がん発症を扱った5つの観察研究を統合した結果、HR 1.70(95%信頼区間 1.33~2.19)という関連が報告されました。

簡単にいえば、歯周病や特定の口腔病原菌への曝露が確認されたグループで、大腸がんとの関連がみられたということです。

ただし、これは「歯周病の人は大腸がんになる確率が1.7倍」という意味ではありません。

研究によって「歯周病」や「口腔病原菌への曝露」の評価方法が異なり、観察研究から直接的な因果関係を証明することもできないためです。

さらに、F. nucleatumの検出について解析すると、大腸がんとの関連はRR 3.20(95%信頼区間 1.76~5.82)でした。

ここだけを見ると、

「やっぱり歯周病になると大腸がんになるのか!」

と思ってしまいそうです。

しかし、それはまだ早いです。

このメタ解析に含まれた研究は観察研究であり、研究者らも対象研究が少ないことや、歯周病・細菌・大腸がんの評価方法が研究によって異なることを限界として挙げています。さらなる大規模な前向き研究などが必要だとしています。

つまり、

歯周病・口腔病原菌と大腸がんの間に関連は見えている。しかし「歯周病が原因で大腸がんになった」という因果関係とは別の話

なのです。

■2026年|F. nucleatumは大腸がんで何をしているのか?

2026年8月に公開されたレビューでは、さらに一歩進んで、F. nucleatumが大腸がんの「進行」にどのように関わる可能性があるのか、その生物学的な仕組みが整理されています。

現在研究されているのは、

慢性的な炎症
免疫反応への影響
遺伝子発現などの調節
がん細胞の性質の変化
腫瘍周辺の血管への影響
転移につながる変化
細胞死への抵抗

など、かなり広い範囲です。

つまりF. nucleatumは、

「大腸がんがあるから、たまたまそこにいる細菌なのか?」

それとも、

「大腸がんが成長しやすい環境を作る側にも回っているのか?」

という議論が続いてきました。

2026年のレビューは、これまでの実験的研究を統合すると、F. nucleatumが炎症、免疫調節、遺伝子発現、代謝、転移などを介して腫瘍微小環境に能動的に影響する可能性を支持する証拠が蓄積しているとまとめています。

■「F. nucleatumがいるか」だけでなく「どのタイプなのか」へ

最近の研究でさらに興味深いことも分かってきました。

F. nucleatumを単純にひとまとめにすることにも問題があります。

2024年に『Nature』に発表された研究では、F. nucleatum subsp. animalis(Fna)が「Fna C1」と「Fna C2」という2つの異なるグループに分かれ、大腸がん組織で特に多くみられたのはFna C2だったことが報告されました。

つまり、

「F. nucleatumがいるか・いないか」

だけではなく、

「どのタイプのF. nucleatumなのか?」

まで研究が進んできているわけです。

これは2018年にHAKURAIDOUで紹介した「口と大腸の菌を菌株レベルで比較した研究」から考えても、非常に興味深い進展ではないでしょうか。

■「口→腸→大腸がん」という一本道ではない

ここは今回の記事で最も大切にしたいところです。

話を単純化すると、

口腔環境の変化

↓

口腔細菌が消化管へ移動

↓

腸内細菌叢や腸管環境との相互作用

↓

炎症・免疫反応などへの影響

↓

大腸がんとの関連が研究されている

と説明したくなります。

しかし、現在の研究はそこまで単純ではありません。

2026年のレビューでは、口腔と腸の細菌叢は、細菌を飲み込むことによる継続的な移動などでつながっている一方、健康な腸内細菌叢は通常、口腔由来菌が持続的に定着することを抑えていると説明されています。腸内細菌叢や粘膜環境が乱れた場合には、口腔由来の細菌が定着しやすくなる可能性があります。

これは、HAKURAIDOUが2017年の研究を紹介した時点ですでに見えていた話でもあります。

つまり現在考えられているのは、

口腔細菌
↓
腸への移動
↓
腸内細菌叢との相互作用
↓
炎症・免疫反応
↓
腫瘍微小環境との相互作用

という、もっと複雑な関係なのです。

■では「歯周病を治せば大腸がんを予防できる」の?

ここは慎重に考える必要があります。

現時点で、

歯磨きやフロス、歯周病治療によって大腸がんの発症率が下がる

ことまで証明したわけではありません。

2025年のメタ解析でも、歯周病や特定の口腔病原菌と大腸がんとの関連が示されたのであって、口腔ケアによる大腸がん予防効果を実証したものではありません。

したがって、

「大腸がん予防のためにフロスをしましょう」

と直接つなげるのは、現在の科学的根拠を超えています。

一方で、今回見てきた研究から、

「口の健康は口だけの問題ではないかもしれない」

ということは、かなり興味深い研究テーマになっている、といえそうです。

■まとめ|約8年前に見えていた「口と腸のつながり」は、その後どうなった?

HAKURAIDOUでは2017~2018年の段階で、

口腔細菌が腸へ移動して免疫反応に影響する可能性

そして、

口腔と大腸がん組織から同じF. nucleatumが見つかった

という研究を紹介していました。

それから研究は進み、2025年には複数の観察研究をまとめたメタ解析でも、歯周病・口腔病原菌と大腸がんとの関連が報告されています。

2026年にはさらに、

F. nucleatumが炎症や免疫、腫瘍微小環境などにどのように作用するのか

というメカニズムの研究まで進んできました。

一方、

歯周病が大腸がんの原因である

歯磨き・フロスをすれば大腸がんを予防できる

というところまでは証明されていません。

今回の研究の流れから私たちがまず理解しておきたいのは、

「口」と「腸」をまったく別のものとして考える時代ではなくなってきた

ということなのかもしれません。

毎日の口腔ケアには、虫歯や歯周病を防ぎ、口腔の健康を守るという本来の大切な意味があります。

その先にどのような全身への影響があるのか。

「口腔-腸管軸(oral–gut axis)」の研究は、これからも追っていきたいテーマです。

■この記事のポイント

2017年、口腔細菌が条件によって腸に定着し、腸管免疫に影響することがマウスで示された。
2018年、大腸がん患者14人中6人で、大腸がん組織と唾液から同じ菌株のF. nucleatumが検出された。
2024年、F. nucleatumの中でもFna C2と呼ばれる特定のタイプが、大腸がん組織で特に多くみられることが報告された。
2025年のメタ解析では、歯周病・口腔病原菌への曝露と大腸がん発症にHR 1.70という関連が報告されたが、研究数などの限界がある。
2026年には、F. nucleatumが炎症、免疫、腫瘍微小環境、転移などに関与する仕組みについて研究が進んでいる。
ただし、歯周病が大腸がんを直接引き起こすことや、歯磨き・フロスで大腸がんを予防できることが証明されたわけではない。

【参考文献】

Atarashi K, et al. Ectopic colonization of oral bacteria in the intestine drives TH1 cell induction and inflammation. Science. 2017;358(6361):359-365. DOI: 10.1126/science.aan4526.

Komiya Y, et al. Patients with colorectal cancer have identical strains of Fusobacterium nucleatum in their colorectal cancer and oral cavity. Gut. 2019;68(7):1335-1337. Epub 2018 Jun 22. DOI: 10.1136/gutjnl-2018-316661.

高橋直紀、多部田康一. 「歯周病原細菌による消化器がん発症・進行メカニズム」日本歯周病学会会誌. 2021;63(3):151-157. DOI: 10.2329/perio.63.151.

Zepeda-Rivera M, et al. A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche. Nature. 2024;628(8007):424-432. DOI: 10.1038/s41586-024-07182-w.

Chauca-Bajaña L, et al. Periodontitis and Oral Pathogens in Colorectal Cancer: A Systematic Review, Meta-Analysis, and Trial Sequential Analysis. Dentistry Journal. 2025;13(12):595. DOI: 10.3390/dj13120595.

Leite HLA, Lopes FF. Host-Microbe Mechanisms of Fusobacterium nucleatum in Colorectal Cancer. Molecular Oral Microbiology. 2026;41(5):258-265. DOI: 10.1111/omi.70038.

【HAKURAIDOU関連記事】

歯磨きなどで口の中をきれいに保つことが腸の病気の予防につながる!?|早稲田大・慶大
口の中の歯周病菌(F. nucleatum)が大腸がんの発がんに関与|横浜市立大学先端医科学研究センター







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