男性に下痢(特に下痢型過敏性腸症候群:IBS-D)が多い理由は、主に神経系の性差、ホルモン・セロトニン関連の違い、腸内環境・生活要因などが複合的に関与すると、複数の論文・疫学調査で示されています。
過敏性腸症候群は、腸そのものに炎症やキズがないのに、腹痛や下痢・便秘が長く続く病気です。
IBS全体では女性に多いのですが、「下痢型(IBS-D)」は男性に、「便秘型(IBS-C)」は女性に、はっきり分かれやすい特徴があります。
■日本人男性の約1割くらいが「下痢型の過敏性腸症候群(IBS)」
島根大学医学部第二内科・木下芳一教授らが関与した調査(2009年頃)では、国内20〜79歳男性のうち下痢型IBSに該当する人が約1割近くいると報告されています。
メタ解析や複数の研究で、IBS患者のうち男性は下痢関連症状(軟便・水様便、便回数増加)を報告しやすく、女性は便秘・膨満感・腹痛を報告しやすいことが一貫しています。
例:女性で便秘優位の相対リスクが高く、男性で下痢優位。
日本人を含む調査でも、下痢型は若い男性に多く、機能性下痢も男性でやや多い傾向が指摘されています。
全体のIBS有病率は女性で高い(概ね女性1.5〜2倍)一方、病型の偏りが明確です。
■なぜ男性は下痢になりやすいのか?
●神経系・脊髄排便中枢の性差岐阜大学応用生物科学部・志水泰武教授らが行ったラットの実験(The Journal of Physiology, 2021; Horii et al.)によれば、大腸に「痛い!」という刺激が加わった時(ストレスや緊張もこれに近い)に、男性側(オス)ではドーパミンやセロトニンという物質が働いて「腸を動け!」と命令が強くなり、腸の動きが活発になり、下痢になりやすい。
女性側(メス)ではドーパミンはあまり働かず、セロトニン+GABAが働き、GABAという「ブレーキ役」の物質が排便中枢を抑制し、セロトニンの促進効果を打ち消して、腸の動きが抑えられ、便秘になりやすい。
つまり、同じストレスや刺激を受けても、男性はアクセルが踏み込まれやすく、女性はブレーキがかかりやすい、というイメージです。
この仕組みが、人間の「男性に下痢、女性に便秘」という傾向の一端を説明しています。
●セロトニンの働き
セロトニンは腸の動きをコントロールする物質で、男性の方が下痢に結びつきやすい反応をしやすい場合がある、という研究もあります。
●脳腸相関とストレス
ストレスは両性に共通ですが、社会的プレッシャーが強い若い〜中年男性で下痢型が目立ちやすいです。
緊張やプレッシャーがかかると腸が過敏になります。
●食事や生活習慣
脂っこい食事・アルコール・冷たい飲み物を好む傾向、運動不足などが男性で下痢を助長する可能性があります。
●腸内細菌
中国人IBS-D患者を対象とした研究では、男性患者で特定の菌(Prevotella 9など)や短鎖脂肪酸(プロピオン酸)が多く、内臓の過敏さや低度の炎症との関連が示唆されています。
●ホルモン・生理
女性ではエストロゲン・プロゲステロンが消化管運動や痛覚処理に影響し、便秘・膨満を促進しやすい。
男性にはこの抑制が弱い。
■まとめ
男性に下痢が多いのは、
●脳から腸への命令の出し方(神経の仕組み)が男女で違う(脊髄排便中枢を介した神経伝達物質の性差:ドパミン・セロトニン優位で運動促進)
●ストレスを受けたときに腸が動きすぎやすい(ストレス・セロトニン感受性)
●生活習慣や腸内環境の影響が重なる
ためです。
男性が下痢しやすいのは、体の仕組みの性差が表れているという理解が深まるとよいですね。
もし「緊張すると急にお腹が痛くなって下痢する」「外出が不安」といった症状が長く続く場合は、自己判断せず消化器内科などで相談してみてください。
【参考文献】
- Horii K, et al. Sexually dimorphic response of colorectal motility to noxious stimuli in the colorectum in rats. The Journal of Physiology. 2021;599(5):1421-1437.
(岐阜大学・志水泰武教授らの主要論文) - 男性の約1割が下痢系の過敏性腸症候群(IBS)にかかっている|島根大島根大学医学部第二内科・木下芳一教授らが関与した男性IBS実態調査の報道。
(20〜79歳男性で下痢型IBSが約8.9〜1割近く) - Adeyemo MA, et al. Meta-analysis: do irritable bowel syndrome symptoms vary between men and women? Alimentary Pharmacology & Therapeutics. 2010.
(男女の症状差のメタ解析:男性で下痢関連症状が多い) - Lovell RM, Ford AC. Effect of gender on prevalence of irritable bowel syndrome in the community: systematic review and meta-analysis. American Journal of Gastroenterology. 2012.
(女性で全体の有病率が高いが、病型では男性に下痢型が多い) - Sun QH, et al. Sex-based differences in fecal short-chain fatty acid and gut microbiota in irritable bowel syndrome patients. Journal of Digestive Diseases. 2021;22(5):246-255.
(腸内細菌・短鎖脂肪酸の性差) - Katsumata R, et al. Gender Differences in Serotonin Signaling in Patients with Diarrhea-predominant Irritable Bowel Syndrome. Internal Medicine. 2017.
(セロトニンシグナルの性差)
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