「糖尿病予備群」と言われたら、何をすればいいのでしょうか?
食生活を見直す。
運動する。
体重を減らす。
これまで、「糖尿病になる前」の段階から生活習慣を見直すことの重要性を紹介してきました。
さらに、「生活習慣を変えたほうがいい」と分かっていても、一人で続けるのは難しいため、電話などを通じて継続的に支援することが糖尿病予防につながるのではないかという研究も紹介してきました。
ところが今回、これまでの考え方をもう一歩進める興味深い研究が発表されました。
実は、同じ「糖尿病予備群」でも、みんな同じ状態ではないのではないか?
日本人男性の糖尿病予備群を分析した研究では、BMI、空腹時血糖値、ALT、non-HDLコレステロールという4つの指標から、特徴の異なる3つのグループが見いだされました。
しかも、その後の2型糖尿病の発症しやすさには大きな差がありました。
つまり、「糖尿病予備群だから生活習慣改善」というところからさらに進んで、
「その人がどんな特徴を持つ糖尿病予備群なのかを見る」
ことが重要になる可能性があるのです。
研究のもとになったのは「J-DOIT1」
今回発表されたのは、
Identification of distinct metabolic subtypes among Japanese men with prediabetes: a data-driven cluster analysis from the J-DOIT1 study
という研究です。
「Diabetology International」に2026年7月に掲載されました。
実は、まったく新しい人たちを集めて行った研究ではありません。
使われたのは、糖尿病予防研究「J-DOIT1」のデータです。
そして、このJ-DOIT1はハクライドウでも以前取り上げています。
2021年に「糖尿病予備軍に電話で予防のアドバイスを続けることで発症率が4割下がる」という記事を紹介していました。
当時の記事では、減量が順調でなければ励ます、長続きする運動法を一緒に考える、食生活改善を勧めるといった電話支援について紹介しています。
今回の論文は、同じJ-DOIT1を「糖尿病予備群の中にも異なるタイプが存在するのでは?」という別の視点から再分析した研究なのです。
ここが今回の研究の面白いところです。
■健診でもおなじみの4項目から分類
今回の分析対象は、J-DOIT1に参加した人のうち、空腹時血糖値100~125mg/dLだった日本人男性2,172人です。
研究者らが分類に使ったのは次の4項目です。
・BMI
・空腹時血糖値(FPG)
・ALT
・non-HDLコレステロール
特別な最先端検査ばかりではありません。
健康診断などで目にすることのある指標です。
研究者らは、この4項目を標準化してk-meansクラスター分析を行い、3つのグループを見いだしました。
■糖尿病予備群は3つのタイプに分かれた
第1群「Metabolically resilient」
1,149人が分類されました。今回使われた代謝指標から、研究では「metabolically resilient phenotype(MRP)」とされています。
第2群「肥満・インスリン抵抗性型」
581人。
肥満やインスリン抵抗性を特徴とするグループ(OFIP)です。
第3群「非肥満・高血糖型」
442人。
第2群とは異なり、非肥満でありながら高血糖を特徴とするグループ(NOHP)です。
そして5年間の糖尿病非発症生存を調べると、3群には大きな違いが現れました。
■糖尿病発症率は0.70%、2.73%、6.73%
年間の2型糖尿病発症率は、
第1群:0.70%
第2群:2.73%
第3群:6.73%
でした。
さらに第1群を基準として比較すると、調整後ハザード比は、
第2群 3.95(95%CI 2.64~5.92)
第3群 9.81(95%CI 6.75~14.26)
となりました。
同じ「糖尿病予備群」とされた人たちなのに、その後の糖尿病への進みやすさは同じではなかったわけです。
■一番リスクが高かったのは「肥満型」ではなかった
ここで注目したいのは、第3群です。
今回最も糖尿病発症リスクが高かったのは、肥満・インスリン抵抗性型ではなく「非肥満・高血糖型」でした。
糖尿病というと、
「太っている人が注意する病気」
というイメージを持っている人もいるかもしれません。
しかし今回の研究結果を見る限り、少なくともこの日本人男性の集団では、肥満だけを見て糖尿病への進みやすさを判断できないことが分かります。
「太っていないから自分は大丈夫」と考えるのではなく、血糖値などの検査結果にも目を向けることが重要だと考えさせられる結果です。
■ここで「電話による生活習慣支援」の話が面白くなる
さらに今回の研究では、生活習慣への介入との関係も分析されています。
すると第2群の「肥満・インスリン抵抗性型」では、生活習慣介入による糖尿病発症リスクの有意な低下がみられ、ハザード比は0.59(95%CI 0.36~0.97)でした。
一方、今回の研究では有意なリスク低下が確認されたのは第2群でした。
ここは非常に重要です。
第1群や第3群では「生活習慣改善が無意味だった」という意味ではありません。
今回の解析では、統計学的に明確な差として示されたのが第2群だった、ということです。
研究者らも、肥満や脂質異常と関連したインスリン抵抗性を持つ人では、ターゲットを絞った生活習慣介入が特に有効である可能性を指摘しています。
■昔のJ-DOIT1研究が、新しい意味を持ってきた
ここでハクライドウの過去記事に戻ってみましょう。
J-DOIT1の原研究では、参加者を介入群と対照群に分け、介入群では1年間に3回、6回、10回という異なる頻度で電話による生活習慣支援が行われました。両群には体重計や歩数計なども提供されています。
興味深いことに、介入群全体で見ると、5.5年間における2型糖尿病発症のハザード比は1.00(95%CI 0.74~1.34)で、介入群全体について糖尿病発症が減少したとはいえませんでした。
一方、最も頻繁に電話支援を受けたサブグループでは、対照群に比べてハザード比0.59(95%CI 0.42~0.83)でした。
ハクライドウが2021年に紹介した「発症率が4割下がる」という話は、この高頻度電話支援グループについての結果でした。実際、当時の記事でも「1年間に10回電話を受けたグループ」と紹介しています。
そして今回、そのJ-DOIT1のデータを別の角度から分析したことで、
「どんな特徴を持った人に生活習慣支援の効果が表れやすいのだろう?」
という、さらに一歩進んだ問いが見えてきたのです。
■糖尿病予防研究は「個別化」の方向へ?
こうして研究の流れを追ってみると興味深いことが分かります。
これまでの考え方は、
糖尿病予備群を見つける
↓
生活習慣を改善する
↓
それを続けられるように支援する
というものでした。
今回の研究によって、そこにもう一段加わります。
その人は「どんな特徴を持つ糖尿病予備群なのか」を見る
という考え方です。
これは、「糖尿病予備群にこの方法を行えばいい」と一律に考えるのではなく、その人自身の特徴に応じて予防を考える方向につながっていくのかもしれません。
■ただし「私は第3群だ」と自己診断しない
ここは今回の記事で必ず押さえておきたいところです。
今回の3分類は、医療現場で「あなたは第2群です」「あなたは第3群です」と診断するために作られた分類ではありません。
研究者が4項目を標準化し、統計的なクラスター分析によって見いだした分類です。
さらに対象は日本人男性2,172人です。
したがって、女性や他の集団でも同じ3分類、同じリスク差がそのまま当てはまるとは、この研究からは判断できません。
まして、
「第3群だから糖尿病になる」
「第1群なら安心」
というものでもありません。
あくまで、この研究集団の中で見いだされたリスクの違いです。
「糖尿病予備群」は、一つの大きな箱の名前なのかもしれない
今回の研究を一般の人向けに考えるなら、私はこのイメージが一番分かりやすいと思います。
■「糖尿病予備群」は、一つの大きな箱の名前なのかもしれない。
同じ箱に入っていても、中には違う特徴を持った人がいる。
体格が違う。
血糖値が違う。
脂質の状態が違う。
そして、その違いによって、その後の糖尿病への進みやすさも違う可能性がある。
今回の研究では、それをBMI、空腹時血糖値、ALT、non-HDLコレステロールという4つの指標から示しました。
だからといって、
「これまで言われてきた生活習慣改善は意味がなかった」
ということではありません。
むしろ逆です。
糖尿病になる前に気づく。
生活習慣を見直す。
一人で続けにくいなら支援する。
そしてこれからは、その人がどのような特徴を持っているのかも考える。
糖尿病予防の考え方が、少しずつ精密になってきたと捉えるとよいのではないでしょうか。
「糖尿病予備群だから、とにかく痩せましょう」という一律の考え方から、
「この人の場合、何を重点的に見て、どんな支援をすればいいのだろう?」
という個別化された糖尿病予防へ。
今回の研究は、その可能性を考えさせてくれる研究ではないでしょうか。
→ 糖尿病の症状(初期症状)チェック について詳しくはこちら
【参考文献】
Sakane N, Takahashi K, Domichi M, Suganuma A, Kuzuya H. Identification of distinct metabolic subtypes among Japanese men with prediabetes: a data-driven cluster analysis from the J-DOIT1 study. Diabetology International. 2026;17(3):62. doi:10.1007/s13340-026-00917-2. 日本人男性2,172人をBMI、空腹時血糖値、ALT、non-HDLコレステロールを用いて3つの代謝サブタイプに分類し、その後の2型糖尿病発症との関連を分析した今回の原著論文です。
Springer Natureの原著論文
Sakane N, Kotani K, Takahashi K, et al. Effects of telephone-delivered lifestyle support on the development of diabetes in participants at high risk of type 2 diabetes: J-DOIT1, a pragmatic cluster randomised trial. BMJ Open. 2015;5:e007316. doi:10.1136/bmjopen-2014-007316. 1年間の電話による生活習慣支援と、その後の2型糖尿病発症について調べたJ-DOIT1の原報です。
BMJ Openの原著論文
【関連記事】
ハクライドウでは2021年に、J-DOIT1について「糖尿病予備軍に電話で予防のアドバイスを続けることで発症率が4割下がる」という記事を掲載しています。今回確認すると、この「4割」はJ-DOIT1全体ではなく、1年間に10回という高頻度の電話支援を受けたサブグループについての結果として理解するのがより正確です。
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