【目次】
■健康管理に対する関心は高いのに、なぜウェアラブルデバイス市場の成長は鈍化しているのか?
by Hideto KOBAYASHI(画像:Creative Commons)
(2017/1/31、日本経済新聞)
米Fitbitは、当初予測よりも販売が伸びず、業績見通しも引き下げ、人員の削減や営業体制の直しなどコスト削減を行い、業績回復を目指すそうです。
心拍数などの生体データを測れるセンサーを付けた製品はいくつも開発されており、ウェアラブルデバイスを通じてヘルスケア業界に参入しようとするテクノロジー企業は多いため、ウェアラブルデバイスへの関心は高いと感じており、このニュースが出た時驚きました。
本当にウェアラブルデバイス市場の成長は鈍化しているのでしょうか?
ウェアラブルデバイスの成長が鈍化–スマートウォッチはスマホとの差別化がカギ
(2016/12/19、ZDNet Japan)
IDC Japanは、スマートウォッチについて「万人向けのものでないことも明らかになった」とし、その用途について単純さを訴求できるフィットネス分野にフォーカスしている傾向を示した。
ウェアラブル デバイスはBtoBやヘルスケアなど用途をはっきりさせることで需要は広がる
(2017/1/4、エコノミックニュース)
ヘルスケア、ウェルネスの分野では、心拍の計測だけでなく、伸縮性の高い電極材料をウェアに組み込むことで心電信号を図り、デバイスに表示できるようなシステムの登場も見込まれている。
このように身体情報を把握するために利用するデバイスがウェアラブルデバイスの牽引役となることも期待されている。
さらコンパクトなセンサを装着可能にし、身体的な動作情報の把握、健康管理・モニタリングなどへの応用を進めている。
野球やアメリカンフットボールなどの選手に装着、プレー時における体の各部の動きをモニタリング、データ収集を行うことで、的確な指示、指導が可能となり、運動機能、質の向上を図ることができるという。
活動量計「UP」のJawboneが会社清算。CEOらは新会社Jawbone Health Hubへ移行(2017/7/7、Engadget)によれば、Jawboneは会社清算手続きを行ない、Jawbone Health Hubへ移籍し、医療用ウェアラブルに切り替えていくという報道がされています。
また、インテルは、スマートウォッチやフィットネストラッカー部門を廃止するという報道がされています。
【参考リンク】
- Intel axed its entire smartwatch and fitness-tracker group to focus on augmented reality, sources say(2017/7/19、CNBC)
- インテル、スマートウォッチやフィットネストラッカー関連部門を廃止か–CNBC(2017/7/21、CNET)
- Jawboneに活動量計から撤退の報(2度目)。やはり医療ウェアラブル分野に移行するとのうわさ(2017/2/6、Engadget)
これらのニュースを見ると、一般消費者向けのスマートウォッチ・フィットネストラッカーが伸び悩んでいるように感じ、撤退もしくは医療用といった専門ウェアラブルデバイスへの道を模索しているという印象を受けます。
そして、ウェアラブルデバイスが今後も成長していくには、用途をはっきりさせることが重要で、その一つとして、ウェルネス・ヘルスケア分野に用途を絞ることが提案されています。
しかし、こうしたレポートのデータとは対照的なニュースもあります。
テクノロジーと医療分野のトレンド|ウェアラブルデバイス・健康アプリ・医学研究|メアリー・ミーカー(MARY MEEKER)レポート(2017/6/1)で紹介したシリコンバレーの老舗ファンドKPCBのパートナーであるメアリー・ミーカー(Mary Meeker)のインターネット・トレンド・レポート最新版(2017年)によれば、ウェアラブルデバイスはアメリカ人の25%が所有しているというデータ(スライド294)があり、TechCrunchの記事ではその勢いは増すばかりであると書かれています。
ウエアラブルの出荷台数、今年は20%増の1.2億台に 主流は「リストバンド型」から「腕時計型」に
(2017/6/23、JBPress)
米国の市場調査会社IDCがまとめたウエアラブル機器市場に関する最新リポートによると、今年(2017年)1年間における、これら機器の世界出荷台数は、昨年の1億430万台から20.4%増加し、1億2550万台に達する見通し。
(2017/7/3、IDC Japan)
IDCが発行する「Worldwide Quarterly Wearable Device Tracker」の予測によると、2017年には1億2,550万台と予測されるウェアラブルデバイスの出荷台数は、2021年には2億4,010万台に成長すると見込まれ、好調なペースでの市場拡大が期待されています。
IDC Japanによれば、ウェアラブルデバイスの出荷台数は今後も堅調に成長するという予測が立てられています。
ウェアラブルデバイスには、腕時計型、リストバンド型、耳掛け型、靴・衣類型、その他と分類できますが、現在はこれまで主流だったフィットネストラッカーのような「リストバンド型」のウェアラブルデバイスの成長の伸びが鈍化し、ウェアラブルデバイスのトレンドはリストバンド型から腕時計型へと移り、今後数年は「腕時計型」が多数派を占めることになりそうです。
つまり、先ほどまでの記事を総合すると、リストバンド型ウェアラブルデバイスが主力だった企業が転換を迫られているために、ウェアラブルデバイス市場の成長が鈍化しているということなのではないでしょうか?
■なぜ生体データを計測するデバイスが必要なの?
by Nadya Peek(画像:Creative Commons)
なぜ生体データを計測するデバイスがいくつも開発されているのでしょうか?
それは生体データを計測することが健康に役立つからなのですが、その理由には、直接的なものと間接的なものの2つがあります。
●直接的な理由
脈拍の正常値の範囲|脈拍の状態を知ることで健康管理をしよう!によれば、脈拍は1分間に50(60)から100回程度ですが、運動したり、緊張したりすると速くなり、就寝時やリラックスしているときは遅くなります。
病気などがあると、脈拍の早さやリズムが乱れるので、普段の自分の脈の状態を知ることが病気の予防につながると考えられます。
例えば、フィットネストラッカーのデータから心房細動は脳卒中によるものと判断され救われたケースがあるによれば、すでにフィットネストラッカーをつけている人の心拍数のベースラインと異常値のデータを参考に病気を判断したケースがありました。
Fitbitのおかげ。世界初、フィットネストラッカーが人命救助
(2016/4/20、ギズモード)
患者の検査の際に、腕に付けるアクティビティトラッカー(Fitbit Charge HR)を着用していることが確認されました。それは患者のスマートフォン上のアプリケーションと同期されており、フィットネス・プログラムの一環として彼の心拍数が記録されていました。このアプリケーションを患者のスマートフォンを通じて閲覧したところ、彼の心拍数のベースラインが毎分70から80回であり、脳卒中が発生した大体の時間において突如、持続して毎分140から160回の幅へと上昇していたことが分かりました。心拍数はジルチアゼムを投与するまで上昇した状態が続きました。
Fitbitのデータのおかげで、心房細動は脳卒中によって引き起こされたものであり、電気的除細動を行って良いことが確認されたということです。
フィットネストラッカー「Fitbit Charge HR」に記録されている心拍数のデータを参考に、医師は心房細動は脳卒中によって引き起こされたと判断し、電気的除細動を行なったそうです。
スマートウォッチは病気の早期発見に役立つ|正常値とベースライン値の確立が重要|スタンフォード大によれば、スタンフォード大学のマイケル・スナイダーの研究によれば、フィットネスモニターや他のウェアラブルバイオセンサーが心拍数、肌の温度などの異常が起きているかを知らせてくれることにより、病気になっていることを伝えてくれるそうです。
●間接的な理由
厚生労働省、個人の医療データの一元管理で医療の効率化目指す 2020年度からによれば、厚生労働省による過去の病院での治療歴や薬の使用状況、健診結果など様々な情報を一元化したデータベースの運用を目指していくそうです。
医療・健康分野におけるICT化の今後の方向性(平成25年12月、厚生労働省)によれば、
健康寿命を延伸するためには、ICTを利用した個人による日常的な健康管理が重要
だと書かれています。
ICTとは、Information and Communication Technology(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー:情報通信技術)の略です。
ICTを活用した医療分野への活用の例としては次の通り。
- 電子版お薬手帳や生活習慣病の個人疾病管理など患者・個人が自らの医療・健康情報を一元的、継続的に管理し活用する仕組み
- 地域包括ケアシステム(電子カルテ情報を地域の診療所が参照する)
- ICTを活用してレセプト等データを分析し全国規模の患者データベースを構築し、疾病予防を促進
ICT医療においては、ICTを活用した個人の健康管理がスタートであり、カギとなります。
例えば、ヘルスケア分野でIOTを活用する実証実験開始|IOTで市民の健康データを取得し、新サービス創出、雇用創出、生活習慣病の予防を目指す|会津若松市によれば、スマホアプリやウェアラブルデバイスなどから取得した市民の様々な健康データを集約し、オープンデータ化し、そのデータを活用して新サービスの創出、医療費の削減などを目指していくそうです。
この実証実験でもスタートとなっているのは、スマホアプリやウェアラブルデバイスなどから生体データを取得することです。
市民から健康データを収集することができなければ、データの集約やそのデータを活用した新サービスの活用はできないのです。
■まとめ
アメリカでは高齢者が健康維持・増進に特化したウェアラブルテクノロジーをいち早く取り入れているによれば、アメリカでは高齢者はテクノロジーに対する恐怖心があるわけではなく、若者と同様に、健康管理のためのテクノロジーや機器を取り入れる、または取り入れたいと思っているようです。
高齢者が健康維持・増進に特化したウェアラブルテクノロジーを取り入れている理由としては、1.健康維持への関心の高さ、2.モバイルテクノロジーへの心理的障壁が想像よりも低い、ということが考えられるそうです。
つまり、テクノロジーへの心理的障壁が低く、健康維持に関心が高い高齢者が使いたいと思うウェアラブルデバイスを提供することができるとウェアラブルデバイスに関する市場はもっと活性化するのではないでしょうか?
そして、もう一つは、リストバンド型のような単機能型からスマートウォッチのようなさまざまな機能を持つウェアラブルデバイスにどれだけの人が関心を持つようになるのかが気になるところです。
ViBand: High-Fidelity Bio-Acoustic Sensing Using Commodity Smartwatch Accelerometers
ただ将来的には、SIREN CARE|糖尿病患者の足の炎症や傷害を温度センサーでリアルタイムに見つけるスマートソックスで取り上げた、グーグルの先進技術プロジェクト部門、ATAP(Advanced Technology and Projects)が取り組んでいる「Project Jacquard」という伝導性繊維をあらゆるファッションアイテムに搭載できるような技術の開発によって、全ての衣類がウェアラブルデバイスになる日も遠くないかもしれません。
【参考リンク】
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