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日本人の大腸がん患者の5割に腸内細菌のコリバクチン毒素が関与か/若年者の大腸がん発症増との関連も




■日本人の大腸がん患者の5割に腸内細菌のコリバクチン毒素が関与か/若年者の大腸がん発症増との関連も

国際共同研究により大腸がんの全ゲノム解析を実施し日本人症例を解析 日本人大腸がん患者さんの5割に特徴的な腸内細菌による発がん要因を発見(2025年5月21日、国立がん研究センター)によれば、日本人の大腸がん患者の5割に、一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異パターンが存在することが明らかになりました。

コリバクチン毒素による変異パターンは、高齢者症例(70歳以上)と比べて若年者症例(50歳未満、大腸がん全体の約10%を占める)に3倍多い傾向がみられ、日本をはじめ世界的に問題視されている若年者大腸がんの重要な発症要因である可能性が示唆されました。

→ 大腸がんの症状(初期症状)チェック はこちら

【参考リンク】

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■コリバクチンとは?

腸内細菌叢とがん発生の分子メカニズム

近年、腸内細菌叢の中には「コリバクチン」とよばれる遺伝子損傷性毒素を産生する菌が存在することがわかってきた。
<中略>
コリバクチン産生菌は、感染した大腸細胞のDNAを損傷すること、炎症モデルマウスに感染させると大腸発がんが惹起されること、大腸がん患者の55-67%からコリバクチン産生菌が検出されること、大腸がんで見つかる遺伝子変異の部位とコリバクチンの作用する塩基配列に共通性がみられることなどから、コリバクチン産生菌は新たな大腸発がん因子として注目されている。

【米国で特許取得】大腸がんリスク因子を測定/当社が「コリバクチン検査」の独占的実施権を取得(2023年7月31日、アデノプリベント)

日本で1年間に大腸がんを発症する人は約15万人、がんの部位別にみた罹患率では1位となっています。大腸がんの罹患率は、この40年で約7倍に増えており、その原因として食生活の欧米化(高脂肪・低繊維食)が関与していると言われています。

 近年、”コリバクチン”という大腸がんの発生リスク因子に注目が集まっています。”コリバクチン”は大腸がん患者の7割が保持する、腸内細菌由来の毒性成分です。

これらの記事ではコリバクチンが大腸がんの新たな発生リスク因子として注目されているのですが、なぜこの菌が影響しているのか、世界中の若者の大腸がんの発症が増えていることとどのような関連があるのかはわかりません。

ただ気になるのは食生活の欧米化と大腸がんの関連がある可能性があり、具体的に言えば高脂肪・低繊維食が何か関連があるとすれば、大腸がん予防には低脂肪・高繊維食が大事ではないかという仮説が立てられます。

大腸がんはもはや高齢者の病気ではない!若い世代で大腸がんの発生率が高まっている理由とは?によれば、貧困によって砂糖入りの飲料や加工食品を選択するなど食事の質が低くなる傾向にあり、そのことが腸内細菌に影響を与えて、大腸がんのリスクを高めているのではないかという説が紹介されていました。

米国で発生したがんによる死亡者のほぼ半数は生活習慣の改善で予防できる可能性がある!で紹介した米国がん協会の研究によれば、がんと生活習慣の関係を調べたところ、2019年に米国で発生したがんによる死亡者のほぼ半数は生活習慣が要因になっている可能性があるそうです。

もし世界中の若者の食習慣に共通するものがあり、例えば、砂糖入りの飲料や加工食品を多く摂取している、野菜(食物繊維を含む)が不足しているという共通項があるのだとしたら、大腸がんを減らす方法になりうるかもしれませんね。

【追記(2025年5月26日)】

急増する若い世代の大腸がん、子どもの頃の腸内細菌が影響か、「毒素」の関連がついに判明

(2025年5月26日、ナショナルジオグラフィック)

今回の研究結果は、コリバクチン由来の変異シグネチャーをもつ参加者たちが10歳未満でコリバクチンにさらされていたことを示唆している。幼少期に腸内微生物叢(そう)へ与えられた「打撃」が、大腸がんの発症時期を20〜30年早めているのではないかと、アレクサンドロフ氏は考えている。

<中略>

アレクサンドロフ氏のチームは、幼少期に個人の免疫系や腸内微生物叢に大きな影響を与える要因が、何らかの役割を果たしていると考えている。たとえば、帝王切開と経膣分娩のどちらで生まれたか、抗生物質を使用したか、母乳か粉ミルクか、加工食品を多く摂取したかといったことが挙げられる。

子どもの頃に腸内細菌叢に起きたことが大腸がんの発症時期を早めている可能性がありますが、その原因は何かはわかっていないようです。

またコリバクチン産生菌は健康な人にも存在し、全員が大腸がんを発症するわけではなく、若い世代の大腸がんの発症の増加をコリバクチンだけに範囲を狭めて研究するのは時期尚早で、健康的な生活習慣を心掛け、早期発見・早期治療が重要なので、大腸がんの症状のサインを見逃さないことを心掛けたほうが良いようです。

■大腸菌がポリケチド合成酵素pksを用いてコリバクチンを合成し腸管内の細胞にDNAダメージを与えて大腸がんの発生にかかわっている

腸に住んでいるある平凡な細菌によって大腸がんは引き起こされる!(慶応義塾大学)

宿主の細胞にDNAダメージを与えうるいくつかのタンパク質が大腸菌には存在し、フェカーリス菌には存在していないことを明らかにしました。その中の一つにポリケチド合成酵素(解説)pksがあり、pksはがん化作用のあるコリバクチン(解説)とよばれる物質を合成できることが知られています。

ヒトでも大腸がんや炎症性腸疾患の患者において、pksを持つ大腸菌の割合は有意に高くなっていることが明らかになりました。そこで、pksを持たない大腸菌を作り出し、pksの大腸がんへの関与を調べたところ、pksを持たない大腸菌を感染させたマウスでは、pksを持つ大腸菌を感染させたマウスよりも大腸がんの悪性度が低くなっていることが示されました(図4)。

<中略>

大腸菌がpksを用いてコリバクチンを合成し腸管内の細胞にダメージを与えることによって、大腸がんの発生に関わっていることが明らかになりました(図1)。しかしながら、IL-10を産生できる正常マウスにpksを持つ大腸菌を感染させても大腸がんの発生はみられなかったことから、腸管内での「炎症」状態により「腸内細菌」叢のバランスを崩し、大腸菌などのある特定の細菌が増殖することが大腸「がん」の発生に重要であることが示されました。

大腸菌がポリケチド合成酵素pksを用いてコリバクチンを合成し腸管内の細胞にDNAダメージを与えて大腸がんの発生にかかわっているそうです。

【参考リンク】

  • Arthur JC, Perez-Chanona E, Mühlbauer M, Tomkovich S, Uronis JM, Fan TJ, Campbell BJ, Abujamel T, Dogan B, Rogers AB, Rhodes JM, Stintzi A, Simpson KW, Hansen JJ, Keku TO, Fodor AA, Jobin C. Intestinal inflammation targets cancer-inducing activity of the microbiota. Science. 2012 Oct 5;338(6103):120-3. doi: 10.1126/science.1224820. Epub 2012 Aug 16. PMID: 22903521; PMCID: PMC3645302.

■まとめ

大腸がんはもはや高齢者の病気ではない!若い世代で大腸がんの発生率が高まっている理由とは?で紹介した2024年12月11日付けで医学誌「Lancet Oncology」に発表された研究によれば、世界の多くの国と地域で50歳未満の若い人の大腸がんの発生率が高まっており、また2023年3月に学術誌「サイエンス」に掲載された論文によれば、1990年代以降は多くの国で、50歳未満での大腸がんの発生率が毎年2~4%ずつ増えており、30歳未満ではより顕著であり、2023年3月に医学誌「CA: A Cancer Journal for Clinicians」に発表した論文でも、米国で55歳未満で診断された人の割合が1995年の11%から現在は20%まで増加しており、大腸がんはもはや高齢者の病気ではないといえます。

今回の研究では世界中の若者の大腸がんの発症要因として腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素が関与している可能性があり、もしこれが原因であるとしたら、どのようなメカニズムで起きているのか、気になるところです。

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お酒と胃の関係|アルコールから胃腸を守るにはどのように対処したらよい?

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年末年始は、忘年会・新年会があり、肝臓を酷使しがちです。

この時期には、体に負担がかかるお酒の飲み方をする人が増え、場合によっては、急性アルコール中毒で病院に運ばれる人が出るほどです。

そこで、今回は、お酒(アルコール)と胃との関係についての記事を紹介します。




■お酒・アルコールと胃との関係

Joy of Sake

by Burt Lum(画像:Creative Commons)

(1)酒はほろ酔い加減まで

(2008/11/19、読売新聞)

「忙しい年末は、ストレスがたまったり、風邪をひいたりして胃が弱っている。そんな時の酒の飲み方には、普段以上に注意が必要なのです」。

アルコールと消化管の関係に詳しい順天堂大名誉教授の佐藤信紘さんは警告する。

年末になると、仕事へのストレスもピークで、疲れもたまり、風邪をひいたりして、胃が弱ってくる人も多いと思います。

そんな体の弱っているときにはお酒の飲み方に特に注意が必要なようです。

胃袋では、食べ物を溶かして腸で吸収するため、胃壁から塩酸とたんぱく質分解酵素が加わった強力な胃液が出る。その胃液で胃自体が消化されないよう、胃の表面は粘液でガードされている。

しかし、ストレスの多い生活や喫煙、一部の風邪薬などに含まれている非ステロイド系の消炎鎮痛剤の服用は、防御役の粘液の出を悪くしてしまう。

弱った胃にアルコールの刺激が加わると、炎症や出血などを伴う急性の胃粘膜障害が起きるほか、飲み過ぎて吐くと、胃の上部が裂けて吐血することもある。

ストレスを解消するためのアルコールが、逆に体に対してはストレスを与えてしまい、健康を害する恐れがあるようです。

胃に限らず、食道や腸など、消化管のがんには、アルコールの関与が指摘されている。

また、お酒を飲む際には、いきなり飲まずに先に胃に食べ物を入れてから飲む、アルコール度数の高いお酒は極力避けるなどの対策が必要です。

記事の中では、以下のような理由からチーズを食べることを薦めています。

チーズなどたんぱく質を含む食べ物は、傷んだ胃粘膜の入れ替わりを促進するのでお勧めだ。

記事の中では、お酒の飲みすぎのサインも紹介していました。

限度を超えた飲酒は、腸で悪玉の腸内細菌を増やす。飲んだ翌朝、下痢をしたなら飲み過ぎのサイン。

飲んだ翌朝、下痢をしたら、飲みすぎのサインだそうです。

健康な体を維持するためにも、お酒はほどほどにしましょう。

→ 胃痛(胃が痛い)|胃の痛みから考えられる病気とその原因・特徴的な症状 について詳しくはこちら

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イヌリン(食物繊維)を摂って糖尿病改善|イヌリンを含む食品・食べ物|#ためしてガッテン(#NHK)

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2015年6月10日放送のNHKためしてガッテンのテーマは「食べて糖尿病大改善! 医師も驚がく最新ワザ」です。

糖尿病が気になるあなたも、糖尿病予備群のあなたも、しっかりと予防をすれば、健康で長生きができ、ワクワク楽しい生活ができますので、ぜひ糖尿病のことを知って、生活習慣を変えていきましょう!




【目次】

■食物繊維(イヌリン)を摂って糖尿病改善|ためしてガッテン(NHK)

Heads of cabbage

by Ken FUNAKOSHI(画像:Creative Commons)

今回のポイントは、「腸内細菌」。

腸内細菌については様々なテレビ番組で取り上げられていますよね。

【関連記事】

肥満やメタボの第3の要因に腸内細菌叢が関係している?和食を食べて予防しよう!によれば、肥満やメタボリックシンドロームを引き起こす第三の要因として腸内細菌叢(腸内フローラ)が関係しているのではないかと考えられています。

番組によれば、腸内細菌の中には、腸でインスリンを分泌するように指令を出すスイッチを増やすものがあるそうで、その腸内細菌(「バクテロイデス」の仲間の細菌)を元気にすることで、血糖値が下がりやすい=糖尿病になりにくい体質を手に入れられるそうです。

慶應義塾大学の伊藤裕先生によれば、血糖値を下げる腸内細菌を元気にするためには、エサを与えてやる必要があるそうです。

そのエサとは、善玉菌の餌となるイヌリン

→ イヌリンとは|イヌリンの効果・効能|イヌリンの多い食品・食べ物 について詳しくはこちら

イヌリンは、水溶性食物繊維である、ごぼう、にんにく、納豆、大麦入り玄米など根菜類(根っこ野菜)、キノコ類、海藻に含まれています。

つまり、腸内細菌を元気にして血糖値が下がりやすい体質にする方法は、水溶性食物繊維を含む食品を一品増やすこと。

→ 食物繊維が多い食品 について詳しくはこちら

食事に水溶性食物繊維を含む食品を加えることで、腸内細菌が元気になり、腸にあるインスリンを出すように促す、すい臓に指令を送るスイッチが増えるそうです。

→ イヌリンを含む「菊芋(キクイモ)」のサプリメントにはどんなものがあるの? について詳しくはこちら

→ 【たけしの家庭の医学】キクイモが中性脂肪を減らす食材!イヌリンを含む野菜ランキングベスト5! について詳しくはこちら

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■増えたスイッチを効率よく押す方法

魚を食べることで、インスリンを出せという指令をたくさん押すことができるそうです。

最初に野菜を食べて食物繊維というエサを腸内細菌に送り、次に魚を食べてインスリンを出せという指令をたくさん押し、その後にごはんを食べるとよいそうです。

鯨井康雄さん、鯨井優さん考案の食べる順番ダイエットで13KGダイエットによれば、まず、野菜、枝豆、そら豆、海藻、もずく酢などの食物繊維が含まれた食材を食べきり、その後、魚、肉などのたんぱく質のおかずを食べ、最後にごはん、麺、パンなどの炭水化物を摂るという方法でした。

この方法でダイエットが出来る理由としては、食物繊維から食べることで早食いを抑制し、血糖値を急上昇させないことがダイエットに効果的であると紹介されていました。

■まとめ

糖尿病を予防する食べ方とダイエットに効果的な食べ方と便秘を解消する食べ方が共通するというのは面白いですよね。

→ 糖尿病の症状・初期症状|糖尿病とは について詳しくはこちら

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プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ、慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制|腸管バリア機能強化による慢性炎症抑制の可能性|順天堂大学

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【目次】

■プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ、慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制|腸管バリア機能強化による慢性炎症抑制の可能性|順天堂大学

プロバイオティクス投与後の血液中への細菌の移行
プロバイオティクス飲料の摂取16週後において、摂取群では血液中の腸内細菌数は減少した。

参考画像:プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者にもたらす効果~ 腸管バリア機能強化による慢性炎症の抑制の可能性 ~(2017/10/20、順天堂大学プレスリリース)|スクリーンショット

プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者にもたらす効果~ 腸管バリア機能強化による慢性炎症の抑制の可能性 ~

(2017/10/20、順天堂大学プレスリリース)

日本人2型糖尿病患者におけるプロバイオティクス飲料の継続摂取により、
・摂取群では便中の総ラクトバチルス属菌が増加し、腸内の善玉菌も増加した。
・摂取群では血中の細菌数が減り、血中への腸内細菌の移行を抑制することができた。
・腸管バリア機能を強化することで慢性炎症を抑制する可能性を提示した。

順天堂大学大学院医学研究科・代謝内分泌内科学の金澤昭雄 准教授、佐藤淳子 准教授、綿田裕孝 教授、プロバイオティクス研究講座の山城雄一郎 特任教授らの研究グループは、ヤクルトとの共同研究の成果として、プロバイオティクス飲料の継続摂取が日本人2型糖尿病患者の腸内フローラを変化させ、慢性炎症の原因となる腸内細菌の血液中への移行を抑制することを明らかにしたそうです。

以前取り上げた、肥満になっても腸管で炎症が起こらないと糖尿病になりにくい!?|慶大によれば、高脂肪食の過剰摂取による大腸の慢性炎症がインスリン抵抗性を引き起こし、糖尿病の発症につながるという新たな糖尿病発症メカニズムを解明し、「肥満になっても、腸管で炎症が起こらないと糖尿病になりにくい」ことを示すものであり、将来的には腸の炎症を抑えることによって糖尿病の発症を防ぐ薬の開発が期待されると紹介しました。

今回の研究によれば、2型糖尿病患者がプロバイオティクス飲料を継続摂取をすることによって、慢性炎症の原因となる腸内細菌の移行を抑制し、腸管バリア機能(腸管上皮細胞がもつ腸内細菌の侵入を防ぐバリア機能)を強化することで慢性炎症を抑制する可能性を示しました。

■背景

日本人2型糖尿病患者では、腸内フローラのバランスが乱れていること、さらに腸内フローラの乱れから腸管バリア機能*2が低下することにより腸内細菌が血流中へ移行しやすいバクテリアルトランスロケーション(BT: Bacterial Translocation)*3が起こっていることを研究グループは明らかにしてきました(注1)。
2型糖尿病では、病態の一つであるインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっており、これには腸内フローラの乱れや腸内から血液中に移行した腸内細菌がリスクとなります。そのため、腸内フローラを適切に維持し、血液中への細菌の移行を抑えることが慢性炎症の予防には必要です。

ポイントをまとめてみたいと思います。

●日本人の2型糖尿病患者では、腸内フローラのバランスが乱れている

●腸内フローラの乱れから腸管バリア機能が低下することによって、腸内細菌が血流中へ移行しやすいバクテリアルトランスロケーション(BT: Bacterial Translocation)が起こっている

バクテリアルトランスロケーション(BT: Bacterial Translocation)とはどういうものなのでしょうか?

バクテリアルトランスロケーション(BT:Bacterial Translocation)

腸管粘膜を介して生きた腸内細菌が腸管内から粘膜固有層、さらには腸管リンパ節や他の臓器に移行し感染を引き起こすことをバクテリアルトランスロケーション(BT)と呼んでいます。BTを引き起こす主な原因としては、1) 腸管内における細菌の異常増殖、2) 腸管バリア機能の障害、 3) 侵襲してくる細菌に対する生体防御機構の破綻と考えられています。

●2型糖尿病ではインスリンが作用する臓器の慢性炎症が問題となっている

こうした背景から、腸内フローラのバランスを整えることがわかっているプロバイオティクス飲料を摂取することによって、2型糖尿病患者の腸内フローラのバランスがどうなるか、そして腸内細菌の血液中への移行にどのように及ぼすのか、について研究したのが今回の研究です。

■まとめ

2型糖尿病患者がプロバイオティクス飲料を継続摂取をすることによって、慢性炎症の原因となる腸内細菌の移行を抑制し、腸管バリア機能を強化することで慢性炎症を抑制する可能性が示されました。

今後、腸管バリア機能の強化による慢性炎症抑制をターゲットにした糖尿病の新薬開発が期待されます。

→ 糖尿病の症状・初期症状 について詳しくはこちら







【参考リンク】
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あなたの腸内は肉派?野菜派?どんな食べ物を食べているかで腸内細菌叢が変わる!その影響は健康や環境にも関わってくる!




学術誌「Nature Microbiology」で発表された研究によれば、食べ物によって腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう;マイクロバイオーム)が変わり、そしてそれが健康に直結していることがわかります。

【参考リンク】

今回紹介する論文は「普段の食事がおなかの中の細菌である腸内細菌叢(gut microbiota)にどう影響するか」を大規模に調べた研究で、具体的には、雑食(肉・乳製品・野菜なんでも食べる)、ベジタリアン(肉は食べない)、ビーガン(肉も乳製品も食べない)の3つのグループを比べて、腸内細菌がどう違うかを5つの多国籍コホート(合計21,561人)のデータを用いて分析しています。

■【補足】腸内細菌叢って何?

腸内細菌叢は、腸に住む何兆もの微生物のコミュニティで、消化や免疫、心臓代謝の健康に深く関わっており、食べ物の種類によって細菌の種類や働きが大きく左右するため、食習慣が健康や病気リスクにどうつながるかを理解する鍵になります。

■研究の方法

研究では、イギリス、アメリカ、イタリアから集めたデータを統合し、雑食(19,817人)、ベジタリアン(1,088人)、ビーガン(656人)の便を調べて、細菌のDNAを解析し、「どんな食事を普段してますか?」というアンケートをもとに3つのタイプに分類しました。

雑食:肉、乳製品、野菜なんでも食べる。

ベジタリアン:肉はNGだけど、乳製品や野菜はOK。

ビーガン:肉も乳製品も一切食べず、植物性のものだけ。

■わかったこと

●食事で細菌が変わる!

雑食:牛肉などの赤肉と関連が強い細菌(Ruminococcus torques、Bilophila wadsworthiaなど)が優勢で、これらは心臓代謝マーカー(血圧やコレステロール)と負の相関(マイナスの影響)で、健康リスクと関連。

ビーガン:野菜や果物を食べると増える、植物繊維を分解する細菌(Lachnospiraceae、Roseburia hominisなど)が多く、心臓代謝マーカー(心臓とエネルギー代謝)に良い影響。短鎖脂肪酸(SCFA)の産生が活発で、炎症抑制や腸バリア強化に寄与。

ベジタリアン:中間的な特徴で、乳製品由来の細菌(Streptococcus thermophilusなど)が目立つ。

●肉 vs 植物:細菌の機能が対照的

肉をたくさん食べる雑食の人は、細菌が肉を分解するのに慣れていて、雑食の細菌は、肉のたんぱく質を分解して(タンパク質発酵)、トリメチルアミン(TMA)を生成し、これがTMAO(心血管疾患リスク因子)に変換される。

ビーガンの細菌は、植物多糖を分解して「短鎖脂肪酸(SCFA)」という健康にいい物質を作り、健康的な腸環境をサポート。ポリフェノール代謝も活発で、抗炎症作用、腸を強くする効果が期待できる。

●食べ物から細菌が入ってくる

乳製品を食べる雑食やベジタリアンでは、ヨーグルトやチーズの細菌(S. thermophilusなど)が腸に定着。

ビーガンでは、野菜についた土壌細菌(Enterobacter hormaecheiなど)が多く、野菜経由で移行してる可能性。

●健康への影響

雑食の細菌は、心臓や血管の病気リスクと少し関連がありそうで、ビーガンの細菌は、心臓代謝のマーカーが良くて、病気予防に役立つ可能性が高い。

■まとめ

今回の研究のポイントは、食事で細菌をコントロールできる、例えば肉多めだと心臓リスクが上がる細菌が増え、植物多めだと健康的な細菌が育つということです。

腸内細菌を「細菌の町」だとたとえてみると、雑食の人は「肉屋」が多くて、ビーガンは「八百屋」が多く、ベジタリアンはその中間で「乳製品屋」もあるイメージ。町の住人(細菌)は、どんなお店が多いかで決まる。

腸内細菌を「生態系」と捉えてみると、雑食は「肉食動物が支配する森」、ビーガンは「植物が豊かな草原」、ベジタリアンは「乳製品の牧場もある中間地帯」で、どんな食事をするかでどんな生態系を作るか、そして健康になるかが決まる。

【補足】

腸を健康に保つ秘訣、意外と簡単な食事のポイントとは、最新研究から専門家がアドバイス(2025年3月18日、ナショナルジオグラフィック)では今回の研究に関連して3つ気になることが書かれていました。

1)同じ野菜ではなくいろんな野菜を食べることで体に良い影響がある

もし毎日ケールのサラダばかり食べているとしたら、ケールを好む細菌だけが餌をもらっていることになる。キャベツを好む細菌もいれば、メキャベツを好む細菌、キヌアを好む細菌もいる。さまざまな微生物に餌を与えることで、さまざまな短鎖脂肪酸が作られ、体にさまざまな良い影響をもたらす。

研究の中では野菜をとることが腸内細菌叢にとってよいことだということでしたが、同じ野菜ばかりを食べていてはその野菜を好む細菌だけが餌をもらっていることになるため、腸内細菌叢をよくするためにはいろんな野菜を食べたほうがいいということですね。

2)フィトケミカル(ファイトケミカル)

 また、カラフルな植物はファイトニュートリエント(植物栄養素、ポリフェノールやカロテノイドなど)の宝庫でもある。例えばその一つであるさまざまな抗酸化物質は、炎症を防ぐ細菌の増殖を促すなどして、慢性疾患から体を守る働きをする。

がんリスクを下げる抗ガン食材とはどんな食べ物なの?で紹介した野菜の色の成分「フィトケミカル(ファイトケミカル)」とは、植物性食品に含まれる物質の総称のこと。

植物性食品には、ビタミンやミネラルなどの栄養素、食物繊維などが含まれていますが、フィトケミカルとは、「色」「香り」「苦味」といった今まで栄養素とは考えられていなかった成分のことをいいます。

食物の5大栄養素は、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルであり、近年、食物繊維が第6の栄養素として注目を集めました。

そして、今まで食物繊維同様、栄養素と考えられていなかった「色」「香り」「苦味」等の植物性食品の成分のフィトケミカルが第7の栄養素として取り上げられるようになりました。

「色」「香り」「苦味」が実は栄養素であり、同じ野菜ばかりを食べるのではなく、いろんな色の、香りの、苦みの野菜を食べることが健康に良いのではないでしょうか?

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3)ヴィーガンの腸内にはプロバイオティクスがない

セガタ氏らはさらに、ビーガンの腸内にはチーズ、ヨーグルトなどの発酵乳製品に含まれる有益なプロバイオティクス(腸内微生物叢の多様性を高める生きた微生物)がないと指摘している。

発酵乳製品をとらない食生活と摂る食生活で腸内細菌叢が変わるのは間違いがなく、それがどのような影響を与えるのかが気になるところです。

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