hakuraidou_blog のすべての投稿

認知症の新たな2つのリスク要因(視力低下とLDLコレステロール値の高さ)が追加!認知症の45%は遅らせたり軽減できる可能性/ランセット




医学誌『The Lancet』の新たな研究では、2020年の調査結果が修正され、視力の低下とLDLコレステロール値の上昇という2つの新たなリスク要因が特定され、リスク要因の総数は14となりました。

そして、認知症の45%は遅らせたり軽減したりできる可能性があることが明らかになり、これは2020年の調査結果から5%増加しています。

【子供・青年期】

1)子供たちに初等・中等教育を提供する 5%

【中年期】

2)難聴への対策(補聴器など) 7%
3)外傷性脳損傷を防ぐ(頭部のけがを防ぐ) 3%
4)高血圧対策 2%
5)過度のアルコール摂取を避ける 1%
6)肥満対策 1%

【晩年期】

7)禁煙 2%
8)うつ病予防 3%
9)社会的交流・社会的接触を増やして社会的孤立を防ぐ 5%
10)大気汚染を減らす 3%
11)運動不足を解消する 2%
12)糖尿病予防 2%

【新たに追加された2つの要因】

13)視力低下 2%
14)LDLコレステロール値の高さ 7%

→ 認知症対策|認知症に良い食べ物・栄養 について詳しくはこちら

【関連記事】

【参考リンク】







【関連記事】

甘味飲料、炭酸飲料、野菜・果物ジュース、砂糖入りコーヒーによるうつ病リスク上昇と、ブラックコーヒーによるうつ病リスク低下を確認




飲料とうつ病の関連について~甘味飲料、炭酸飲料、野菜・果物ジュース、砂糖入りコーヒーによるうつ病リスク上昇と、ブラックコーヒーによるうつ病リスク低下を確認~(2024年5月17日、国立精神・神経医療研究センター)

国立精神・神経医療研究センターによれば、甘味飲料、炭酸飲料、野菜・果物ジュース、砂糖入りコーヒーによるうつ病リスクが高くなり、ブラックコーヒーによるうつ病リスクが低くなることがわかりました。

今回の研究のポイントは2つ。

1.野菜・果物それ自体はうつ病に予防的に働くことが先行研究で示されていますが、野菜・果物ジュースを飲むと逆にリスクが高くなる

野菜・果物およびフラボノイド豊富な果物とうつ病との関連について果物およびフラボノイドの豊富な果物にうつ病発症リスク低減を確認(2022年11月15日、国立がん研究センター)によれば、果物およびフラボノイドの豊富な果物の摂取量が多いほど、うつ病が発症するリスクが低いことがわかっています。

その理由としては、果物が持つ抗酸化作用などの生物学的作用によりうつ病の発症に対して予防的に働いた可能性が考えられるそうです。

また野菜ならびに関連栄養素の摂取量と、うつ病との間には関連がみられなかったそうです。

今回の研究では、野菜・果物ジュースを飲むと逆にうつ病リスクが高くなることから、果物と果物ジュースには何らかの違いがあり、それがうつ病リスクに影響を与えることが予想されます。

2.コーヒーにおいて砂糖入りコーヒーはうつ病リスクが高くなり、ブラックコーヒーではうつ病リスクが低くなる

これまでの研究において、甘味飲料に含まれる糖分が神経細胞の増殖や分化のために必要な物質(脳由来神経栄養因子)を減少させることや炎症を引き起こすことで甘味飲料はうつのリスクとなり、コーヒーや緑茶は、カフェインなどの抗酸化作用や抗炎症作用からうつに対して予防的に作用すると考えられています。

今回の研究において、甘味飲料の摂取量が多いとうつ病のリスクは高く、緑茶はうつ病のリスクが低いことが報告されたことはこれまでの先行研究と同様の結果でした。

コーヒーでは砂糖入りか、ブラックで飲むかでうつ病への影響が異なる可能性があることがわかりました。

■まとめ

60歳未満の人がコーラやジュースなど砂糖入り飲料やダイエットコーラなど人工甘味料入り飲料を1日1杯以上飲むとうつ病のリスクが上がる!によれば、イギリスの「UKバイオバンク」というデータベースを使い、18万8千人以上の人の飲料摂取(何をどれだけ飲むか)と、うつ病や不安障害との関係を調べたもので、11年以上にわたって参加者を追跡し、年齢によって飲み物の影響がどう違うかを分析したところ、60歳未満の人がコーラやジュースなど砂糖入り飲料(SSB)やダイエットコーラなど人工甘味料入り飲料(ASB)を1日1杯以上飲むと、うつ病のリスクが上がり(SSBで14%、ASBで23%リスク増)、60歳未満の人が純粋なフルーツ/野菜ジュース(PiS)やコーヒーを飲むと、うつ病のリスクが下がるという結果が出ています。

同じような結果が出ているものもあれば、野菜・果物ジュースのように違った結果が出ているものもあります。

最近の研究では、食べ物によって腸内細菌叢が変化し健康(体も心も)に影響を与えることがわかってきていています。

今後はその人の腸内環境と体の心の健康状態を比較しながら、食べ物と飲み物を改善することにより、生活習慣病やうつ病リスクを下げる予防医学になっていくかもしれませんね。







なぜ日本人の果物摂取量は少ないの?その理由とは?




■果物摂取量の現状

日本人の果物摂取量は少ないといわれています。

健康日本21(第二次)の最終評価によれば、果物摂取量は200g/日を目標値として設定していますが、果物摂取量100g未満の人の割合は悪化しており、若い人ほど果物を食べていないということがわかります。

■果物摂取量が少ない理由

なぜ日本では果物摂取量が少ないのでしょうか?

1)イメージと認識の問題

●価格の高さ:果物と健康(農林水産省)を参考にすると、日本・フランス・ドイツにおいて果物のイメージ調査をしたところ、「おいしい」という面では共通していますが、フランス、ドイツでは「健康によい」、「バランスが良い食生活になる」、「抗酸化成分が豊富」、「ダイエットに適している」、「手軽に食べられる」が比較的多い一方、日本では「値段が高い」や「食べるまでが面倒」が多いのが特徴です。

つまり、日本ではおいしいものというイメージはあっても健康に良いものとしてのイメージは少なく、値段が高いもの、食べるのが面倒なものというイメージを持っているために果物を食べる機会が少ないと考えられます。

●「果物=太る」という誤解: もう一つ考えられるのは果物=太るというイメージがあるからではないでしょうか?

果物は甘く、「甘い=糖分が多く高エネルギー」といったイメージがあるため、いまだに、果物は太ると思っている人がいますが、これは大きな誤解です。
<中略>
近年、みかんやりんごは技術革新により甘さの指標である糖度が高くなっています。糖度が1度上がるとかなり甘くなったと感じるのですが、1度の糖度上昇にともなうエネルギー増加量は100gあたりわずかに4kcal程度なのです。

果物と菓子類のエネルギー量の比較(100g当たり)を参考にすると、菓子類のエネルギー量と比較すると、果物のエネルギー量が低いことがわかります。

食事全体の総エネルギー摂取量に変化がなければ、果物の摂取量を増やしても肥満になることはないということなんですね。

2)ライフスタイルと経済的要因

可処分所得の低さ:果物を子供に食べさせたいと思っていても、経済的余裕のなさが購入を妨げていたり、日本では果物の価格が諸外国に比べて高く、日常的な消費が難しい。

食べる手間の問題: 果物の皮むきや切り分けの手間が、忙しい現代人にとって敬遠される要因。特に若年層は手軽なスナック菓子や加工食品を選ぶ傾向が強い。

3)健康効果の認知不足

欧米に比べ、日本では果物の健康効果(抗酸化作用、ビタミン・ミネラル供給、疾病予防など)に対する認知が低い。農林水産省の資料では、果物摂取ががん(口腔・咽頭・喉頭がん、肺がん)、心臓病、脳卒中、2型糖尿病、骨粗しょう症、フレイルなどのリスクを低減することが科学的に示されているが、この情報が一般に浸透していない

■果物の健康効果

果物と健康(農林水産省)では果物の健康効果についてもたくさん紹介されています。

●果物によるがん予防は、口腔・咽頭・喉頭がんと肺がんで「ほぼ確実」と評価されています。

●みかんに多く含まれているβ–クリプトキサンチンについては、国内のコホート研究において、血中濃度が高い者ほど肝機能低下の発症リスクが低くなること、また脂質異常症や2型糖尿病の発症リスクも有意に低下することが明らかにされています。

●果物の摂取によって血液中のコレステロール中性脂肪が低下し、「心臓病」と「脳卒中」などの循環器疾患の発症リスクが低下することが報告されています。

●食物繊維には、コレステロールや脂質の吸収を抑制することや、ビフィズス菌等の有用菌を増やす働きがあることが知られています。また、ファイトケミカルには抗酸化作用や、体脂肪の蓄積抑制などの生体調節機能が報告されています

●世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO) が2003年 に 発 表 し た 報 告 書「Diet,Nutrition and the prevention of chronic diseases」では、動物性タンパクの過剰摂取による含硫アミノ酸が酸性血症とも呼ばれる代謝性アシドーシス(血液や他の体液の酸塩基平衡が酸性側に傾く状態)を誘発し、その結果、骨吸収が盛んになり骨に悪影響を及ぼすとしています。これを防ぐためには、カリウム、カルシウム、マグネシウム等の摂取が重要と考えられています。果物にはカリウム等のミネラル類が豊富に含まれており、代謝性アシドーシスを平衡化すると考えられています。

●果物は、骨基質の重要な成分であるコラーゲンを生合成する上で必須な栄養素となるビタミンCの重要な供給源でもあります。

●血中βクリプトキサンチン濃度が高い閉経女性では骨粗しょう症の発症リスクが低下することがコホート研究で示されています。β-クリプトキサンチンは骨形成を促し、破骨細胞による骨吸収を抑えることが明らかにされています。

●疫学研究の結果は、地中海食、魚、果物や野菜の摂取がフレイルの予防に有効である可能性を示唆しています。フレイルには、抑うつや軽度認知障害も含まれるのですが、果物や野菜の摂取はこれらの発症を抑える可能性が示されています。

【関連記事】

健康日本 21(第三次)推進のための説明資料(令和5年5月)

高血圧 16)、肥満 17)及び2型糖尿病 18)の発症リスクとの関連を検討したメタアナリシスによると、果物摂取量について、200g/日まではリスクが減少することが報告されている。また、冠動脈疾患、脳卒中及び全死亡のリスクと果物摂取量を検討したメタアナリシスでは、200g/日程度で相対リスクが低くなることが報告されている 21)。

  • 16) Schwingshackl L, Schwedhelm C, Hoffmann G et al. Food Groups and Risk of Hypertension: A
    Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Studies. Adv Nutr. 2017
    Nov;8(6):793-803.
  • 17) Schlesinger S, Neuenschwander M, Schwedhelm C et al. Food Groups and Risk of Overweight,
    Obesity, and Weight Gain: A Systematic Review and Dose-Response Meta-Analysis of
    Prospective Studies. Adv Nutr. 2019 Mar;10(2):205-218.
  • 18) Schwingshackl L, Hoffmann G, Lampousi AM et al. Food groups and risk of type 2 diabetes
    mellitus: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Eur J Epidemiol.
    2017 May;32(5):363-375.
  • 21) Aune D, Giovannucci E, Boffetta P et al. Fruit and vegetable intake and the risk of
    cardiovascular disease, total cancer and all-cause mortality-a systematic review and doseresponse meta-analysis of prospective studies. Int J Epidemiol. 2017 Jun;46(3):1029-1056.

■まとめ

日本人の果物摂取量が少ない主な理由は、高価格、食べる手間、健康効果の認知不足、そして「太る」という誤解にあると考えられます。

健康効果を認知させることや「太る」という誤解を解くこと、手軽な提供方法を普及していくことが日本人の果物摂取量の増加に役立つのではないでしょうか?







「約15分9秒」の運動を習慣化することでメンタルに良い影響がある/アシックス




「約15分9秒」の運動が、精神にポジティブな影響をもたらす スポーツがメンタルにおよぼす効果に関する研究成果について(2022年3月31日、アシックス)によれば、自身が日ごろから行っている運動を1日あたり「約15分9秒」実行すると、精神状態にポジティブな影響を与える可能性があるそうです。

運動をしない期間は、「自信」が20%、「ポジティブさ」が16%、「エネルギッシュさ」が23%、「ストレスに対処する能力」が22%低下しました。

この研究によれば、わずか1週間の運動不足が心の状態を低下させ、また通常の運動習慣に戻ると心の状態が回復することが分かったそうです。

ADHDがかなり重い人でも1日に1回20分程度の運動を続ければ、気持ちを明るくし、やる気の向上につながる!?で紹介した米ジョージア大学のパトリック・オコーナー教授らのチームによれば、ADHDがかなり重い人でも1日に1回20分程度の運動を続ければ、気持ちを明るくし、やる気の向上につながるそうです。

■運動とやる気の関係

ポケモンGOはうつ病の改善につながる可能性がある!?や<自宅で長時間は危険>スマホの使用時間と位置情報の分析でうつ病診断ができる可能性がある!?で紹介した、米ノースウェスタン大の研究グループによれば、うつ病になると自宅に引きこもってスマートフォンを長時間使用する傾向があるそうです。

うつ病患者は外出する気力がなくなり、憂鬱(ゆううつ)な気分を紛らわすため、一人でインターネットやゲームをすることにより、スマホの使用場所は自宅など極めて少ない地点に限られていたそうですが、今回の実験でわかったように、運動をすることは気持ちを明るくし、やる気の向上につながるのですね。

仕事の合間に運動をするとモチベーションや生産性がアップするという研究結果によれば、仕事の途中でエクササイズを行なうと、やる気が戻るそうです。

運動することはやる気を出すだけでなく、脳の認知能力を高める効果もあります。

有酸素運動をすると、頭も体もスマートになる!?によれば、モントリオール大のアニルニガム博士によれば、有酸素運動のレベルを30秒ほどの短いスパンで緩急変えて交互に行うトレーニングを週2回、これをエアロバイクを使って行い、他にウェイトトレーニングを同じく週2回実践してもらい、4カ月の後に認知機能を含み計測したところ、認知能力の改善、腹囲・太ももの脂肪の減少、インスリン感受性がアップ(このことで血糖値を下げることが期待される)という結果が出たそうです。

実は、運動する時間も短くてよいそうで、たった10分の軽い運動でも脳の働き軽やかに-筑波大で紹介した筑波大学の征矢(そや)英昭教授らの研究によれば、わずか10分間の運動でも、脳の認知機能を高める効果があるそうです。

■まとめ

運動する目的としては体の健康をイメージする人も多いと思いますが、実は心の健康にも役立つんですね。

「最近運動してない」「自信がなくなった」「心が落ち込む」「エネルギッシュさがない」「ストレスを感じる」という人は1日15分9秒の運動を習慣化してみては?







「夜寝る前にはちみつをなめると虫歯になる?それとも虫歯になりにくい?」について調べてみた!




「夜寝る前にはちみつをなめると虫歯になる?それとも虫歯になりにくい?」について調べてみたいと思います。

検索するといろんな歯医者さんが「はちみつを食べると虫歯になる?ならない?」をテーマにブログを書いているのですが、虫歯の原因になるという人もいれば、虫歯になりにくいという人もいて、どっちかわからないので、はちみつを寝る前になめることが虫歯(う蝕)にどの程度影響するかを論文ベースで改めて調べてみたいと思います。

1. はちみつの成分と虫歯の関係

はちみつは主に糖(グルコース、フルクトースなど)で構成されており、理論的には虫歯の原因となる可能性があります。

虫歯は、口腔内の細菌(特に Streptococcus mutans)が糖を発酵させて酸を産生し、歯のエナメル質を溶かすことで発生します(Loesche, 1986, Microbiology Reviews)。

したがって、はちみつを摂取すると、糖が口腔内に残留し、細菌の活動を促進する可能性はあります。

しかし、はちみつには抗菌作用(特にメチルグリオキサールや過酸化水素による)があり、S. mutans の増殖を抑制する可能性が示唆されています(Molan, 1992, Bee World)。

この抗菌作用が虫歯のリスクをどの程度軽減するかは、研究によって結論が分かれます。

2. 寝る前の摂取と虫歯リスク

寝る前に糖を含む食品を摂取すると、唾液分泌が夜間に減少するため、口腔内の糖や酸が長時間歯に接触し、虫歯リスクが高まるとされています(Dawes, 2003, Journal of Dentistry)。

はちみつも糖を含むため、寝る前になめる場合、口腔内に糖が残留する時間が長くなり、虫歯のリスクが理論上増加します。

一方で、はちみつの抗菌作用により、単純な砂糖(スクロース)ほど虫歯のリスクが高まらない可能性があります。

ある研究では、はちみつがスクロースや他の糖類と比較して S. mutans のバイオフィルム形成を抑制する効果が報告されています(Nassar et al., 2012, Caries Research)。

ただし、この研究は in vitro(試験管内)のものであり、実際の口腔環境での効果は限定的かもしれません。

3. 口腔衛生の影響

寝る前にはちみつをなめた後、歯磨きやうがいを行えば、口腔内の糖残留が減少し、虫歯リスクは大幅に低下します(Stookey, 2008, Journal of Dentistry)。

逆に、歯磨きせずに寝ると、はちみつの糖が歯に付着したままになり、虫歯のリスクが高まる可能性があります。

■結論

夜寝る前にはちみつをなめると虫歯になる?虫歯になりにくい?という質問については、虫歯になる可能性と虫歯になりにくい可能性の両方の可能性があります。

虫歯になる可能性:はちみつは糖を含むため、寝る前になめた場合、歯磨きせずに寝ると虫歯のリスクが上昇する(Dawes, 2003; Loesche, 1986)。

虫歯になりにくい可能性:はちみつの抗菌作用により、スクロースほど虫歯のリスクは高くない可能性があるが、完全にリスクを排除するわけではない(Molan, 1992; Nassar et al., 2012)。

大事なことは寝る前にはちみつを摂取したら、きちんと歯磨きやうがいをすることで虫歯のリスクを最小限に抑えられるということ(Stookey, 2008)。

はちみつの種類(特にマヌカハニーなど抗菌作用が強いもの)によって虫歯リスクが異なる可能性があるが、どの種類でも口腔ケアは必須なので、しっかりとケアしていきましょう。

【参考リンク】

【補足】

Almasaudi, 2021, Evidence-Based Complementary and Alternative Medicineの内容を基に、はちみつを寝る前になめることと虫歯の関係について、先の回答を膨らませて詳細に説明します。

はちみつを寝る前になめると虫歯になるか?論文ベースの詳細な検討

1. はちみつの成分と虫歯リスクの基本メカニズム

はちみつは主に糖類(グルコース、フルクトース、スクロースなど)で構成されており、約80%が糖、20%が水分、その他にビタミン、フラボノイド、フェノール酸、酵素などが含まれます(Almasaudi, 2021)。糖は口腔内の細菌、特に Streptococcus mutans によって発酵され、酸を生成することで歯のエナメル質を脱灰し、虫歯を引き起こす可能性があります(Loesche, 1986, Microbiology Reviews)。寝る前に糖を含む食品を摂取すると、夜間の唾液分泌量の減少により、口腔内の糖や酸が長時間歯に接触し、虫歯リスクが高まるとされています(Dawes, 2003, Journal of Dentistry)。

しかし、Almasaudi (2021) の論文によれば、はちみつには強力な抗菌作用があり、S. mutans を含む多くの細菌に対して抑制効果を発揮します。この抗菌作用は、以下のような複数の要因によるものです:

高い浸透圧:はちみつの高糖濃度(水分活性0.562~0.62)は細菌の水分を奪い、増殖を抑制します。

低いpH(3.2~4.5):酸性環境は S. mutans の最適増殖pH(6.5~7.5)よりも低く、細菌の活動を抑制します。

過酸化水素(H₂O₂):グルコースオキシダーゼ酵素により生成され、殺菌作用を持ちます。はちみつを30~50%希釈するとH₂O₂濃度が最大となり、5~100 μg/g(0.146~2.93 mM)の範囲で抗菌効果を発揮します。

ポリフェノール化合物とフラボノイド:フェノール酸(例:カフェ酸、没食子酸)やフラボノイド(例:アピゲニン、ガランギン)は、 S. mutans のバイオフィルム形成やDNA合成を阻害します。

ビーディフェンシン-1:抗菌ペプチドで、特にマヌカハニー以外の蜂蜜で S. mutans や他の細菌の増殖を抑制します。

これらの成分は、はちみつが単なる糖溶液(例:スクロース)とは異なり、虫歯のリスクを軽減する可能性を示唆しています(Nassar et al., 2012, Caries Research)。

2. 寝る前のはちみつ摂取と虫歯リスク:論文の視点からの評価

Almasaudi (2021) の論文では、はちみつの抗菌作用が S. mutans を含むグラム陽性菌やグラム陰性菌(例:MRSA、緑膿菌)に対して有効であると報告されています。特に、はちみつの低いpHとH₂O₂生成は、口腔内の細菌増殖を抑制する重要な要因です。 S. mutans は虫歯の主要な原因菌であり、バイオフィルムを形成して歯に付着し、酸を産生しますが、はちみつのポリフェノール化合物(例:ガランギンはペプチドグリカン合成を阻害)やH₂O₂はバイオフィルム形成を妨げる可能性があります(Alandejani et al., 2008; Maddocks et al., 2013)。

しかし、寝る前にはちみつをなめると、口腔内の糖が残留し、夜間の唾液分泌減少により洗い流されにくい状態が続きます。Almasaudi (2021) は、はちみつの高浸透圧や抗菌成分が細菌の増殖を抑制すると述べていますが、口腔環境では唾液や食物残渣による希釈が起こり、H₂O₂の生成効率や抗菌効果が低下する可能性があります(Molan, 1992)。例えば、はちみつを希釈するとグルコースオキシダーゼが活性化しH₂O₂を生成しますが、口腔内ではこの希釈が不十分で、抗菌効果が最大限に発揮されない場合があります。

Nassar et al. (2012) の研究では、はちみつが S. mutans のバイオフィルム形成を in vitro で抑制したものの、実際の口腔環境では糖の残留時間が抗菌効果を上回る可能性があると示唆されています。したがって、寝る前にはちみつを摂取した場合、抗菌作用が虫歯リスクを完全に相殺する保証はありません。

3. はちみつの種類による違い

Almasaudi (2021) は、はちみつの抗菌効果が花蜜の産地、蜂の種類、加工方法に依存すると強調しています。例えば:
マヌカハニー:メチルグリオキサール(MGO)含量が高く、H₂O₂以外の非過酸化物系抗菌作用が強い。 S. mutans に対する効果も他の蜂蜜より顕著である(Al-Nahari et al., 2015)。

その他の蜂蜜:H₂O₂やビーディフェンシン-1に依存し、マヌカハニーほど強力ではない場合がある。たとえば、アルモハニーはH₂O₂に依存するが、カタラーゼ存在下では効果が低下する(Sherlock et al., 2010)。

マヌカハニー(UMF 10~20)は、 S. mutans に対して10~50%濃度で完全な増殖抑制を示し、殺菌効果を持つことが報告されています(Al-Nahari et al., 2015)。一方、一般的な蜂蜜(例:サウジアラビア産)は細菌静止効果にとどまる場合があります。したがって、寝る前にはちみつをなめる場合、マヌカハニーのような高抗菌力の蜂蜜は虫歯リスクを軽減する可能性が高いですが、一般的な蜂蜜ではリスクが残ります。

4. 口腔衛生の重要性

Almasaudi (2021) の論文では、はちみつの抗菌作用が創傷治療や感染症管理に有効である一方、口腔内での具体的な応用については言及が限定的です。しかし、Stookey (2008, Journal of Dentistry)によれば、糖を含む食品を摂取した後、歯磨きやうがいを行うことで口腔内の糖残留を除去し、虫歯リスクを大幅に低減できます。はちみつの粘性が高いため、歯に付着しやすい性質があり、寝る前に摂取した場合は特に口腔ケアが重要です。

論文では、はちみつのフェノール化合物やフラボノイドが抗炎症作用を持ち、創傷部位の炎症を抑えるとされていますが、口腔内では炎症よりも糖による酸産生が虫歯の主要な問題です。したがって、はちみつの抗菌作用に頼るだけではなく、摂取後の口腔ケアが虫歯予防の鍵となります。

5. 論文に基づく追加の考察:抗生物質との相乗効果

Almasaudi (2021) は、はちみつと抗生物質の併用による相乗効果を強調しています。たとえば、マヌカハニーとテトラサイクリンやリファンピシンを組み合わせると、 S. mutans やMRSAのバイオフィルムを効果的に除去し、抗菌効果が高まります(Jenkins & Cooper, 2012; Müller et al., 2013)。この知見は、口腔内での S. mutans バイオフィルム対策に応用可能かもしれませんが、寝る前のはちみつ摂取に抗生物質を併用することは現実的ではありません。代わりに、はちみつの抗菌成分(H₂O₂、ポリフェノール、ビーディフェンシン-1)が単独でどの程度 S. mutans を抑制できるかが重要です。

6. 実践的なアドバイス

Almasaudi (2021) の論文と他の研究を総合すると、以下のような実践的なアドバイスが導かれます:

少量の摂取:寝る前にはちみつをなめる場合、小さじ1杯程度(約5g)に抑える。糖の総量を減らすことで虫歯リスクを軽減。

高抗菌力のはちみつを選択:マヌカハニー(UMF 16以上など)は、MGOやポリフェノール含量が高く、 S. mutans に対する抑制効果が強い。

口腔ケアの徹底:はちみつをなめた後、すぐに水でうがいするか、可能であれば歯磨きを行う。フッ素入り歯磨き粉を使用するとエナメル質の再石灰化が促進される(Stookey, 2008)。

頻度の制限:毎晩はちみつをなめる習慣は避け、週に数回程度に抑える。頻度が高いほど糖の暴露時間が増え、虫歯リスクが上昇。

はちみつの品質に注意:加工や加熱によりH₂O₂やポリフェノールが失われる場合があるため、生(非加熱)の高品質なはちみつを選ぶ。

7. 結論:虫歯になるか、ならないか?

Almasaudi (2021) の論文を基に、はちみつを寝る前になめることの虫歯リスクを評価すると、以下の結論が得られます:
虫歯になる可能性:はちみつは糖を含むため、寝る前になめた後、歯磨きやうがいをせずに寝ると、口腔内の糖が S. mutans によって酸に変換され、虫歯リスクが上昇する(Dawes, 2003; Loesche, 1986)。特に、一般的な蜂蜜(マヌカハニー以外)では抗菌効果が限定的な場合がある。

虫歯になりにくい可能性:はちみつの抗菌成分(H₂O₂、ポリフェノール、ビーディフェンシン-1、低pH)は S. mutans の増殖やバイオフィルム形成を抑制し、スクロースや他の単純な糖よりも虫歯リスクを軽減する(Nassar et al., 2012; Almasaudi, 2021)。特にマヌカハニーは高い抗菌力を持つ。

口腔ケアが決定的:はちみつの抗菌作用は虫歯リスクを軽減するが、完全に防ぐわけではない。寝る前にはちみつを摂取した後、適切な口腔ケアを行うことで、虫歯リスクをほぼゼロに近づけられる(Stookey, 2008)。

8. 論文の限界と今後の研究

Almasaudi (2021) の論文は、はちみつの抗菌作用を創傷治療や感染症管理の観点から詳細に解説していますが、口腔内での S. mutans に対する具体的な効果や、寝る前の摂取に関する直接的なデータは不足しています。Nassar et al. (2012) のような研究も in vitro に基づいており、実際の口腔環境(唾液流量、食物残渣、歯磨き習慣など)を反映した臨床研究が必要です。今後、以下のような研究が虫歯リスクの評価に役立つでしょう:

はちみつの種類(マヌカハニー vs. 一般蜂蜜)による S. mutans 抑制効果の比較。

寝る前のはちみつ摂取後の口腔内pHや糖残留時間の測定。

口腔ケアの有無による虫歯発生率の長期追跡。

最終回答

はちみつを寝る前になめても、適切な口腔ケア(歯磨きやうがい)を行えば虫歯のリスクは非常に低い。はちみつの抗菌作用(H₂O₂、ポリフェノール、ビーディフェンシン-1、低pH)は S. mutans の増殖を抑制し、スクロースよりも虫歯リスクを軽減する。特にマヌカハニーは高い抗菌力を持つ(Almasaudi, 2021)。しかし、口腔ケアを怠ると、はちみつの糖が口腔内に残留し、虫歯リスクが上昇する(Dawes, 2003)。少量の摂取、高抗菌力のはちみつ選択、摂取後の口腔ケアが虫歯予防の鍵である。